ディナーパーティーという事で参加者がディナー会場へ足を運んでいる。
「柱時計が『世界各国の料理が楽しめる会場は2階のホールです』と教えてくれたよ」流石はチャッピーである。非生物と話が出来る能力は日本を離れてもその力を発揮している。
 2階へ続く階段の通路を歩いていると、さっき売店で居た少女の声。彼女も日本人らしく、異国の地で不思議と心が落ち着く。
 私は彼女に挨拶をした。
「日本から来た杉野麻美です。こちらはハムスターのチャッピー。よろしくね」
 少女は白い歯を見せて微笑んだ。彼女は綾香さんという名前だ。テレビで見るようなアイドルにも似た風貌に一瞬心がときめいた。
 早速チャッピーが私に突っ込みを入れる。
「綾香さんがいっていたアメリカ料理って、所詮はハンバーガーやホットドッグといった軽食が一般的だ。まあここではそんな簡単なものは出ないと思うが」
 チャッピーはアメリカにも神仲間が居るみたいなので、その点の情報は分っているみたいだが、ディナーという言葉を聞いて意気揚々としている綾香さんにはそのことを言わないことにした。
「そうだね。せっかく知り合えたのだから、一緒に休暇を楽しみましょう」と話すと、2階の会場へと向かった。
 広いディナー会場には既にフランス料理から中華料理まであらゆる国の名物料理が並ばれている。見た限りでは日本料理はこの会場では取り揃えていないらしい。
 既に会場には若い男女2人が、たくさんの料理を前に楽しそうに話しながら小さい皿に料理を取り始めている。
 2階の大広間で開かれている夕食会。
 比較的小きなテーブルに、各国の料理を少しずつ盛ってきた皿を真ん中に置き、知り合ったばかりの綾香さんと一緒に舌鼓を打っていた。
 二人とも未成年なので飲物はソフトドリンクだが、初めて味わう甘美な果物のジュースで乾杯をした。
「ここにかっこいい男の子が一人でもいれば……」アヤさんがつぶやく。
 するとチャッピーは、
「男の子ならここにいるよ」とつぶやいた。
アヤさんはクスリと笑った。確かにオスであることには間違いない。
「本当にここの料理はおいしいね」
「うん。日本ではろくな料理しか食べてなかったから、ここの料理は今まで食べた中でイッチャンおいしー!持って帰りたいくらい!」
 相変わらずアヤさんは皆の耳に入ってしまうような大声で答えた。彼女の美貌とともに食堂中の人々の関心を集める。
たちまち男性客がアヤさんの周りに近づいてきている。
「……ステーキの焼きたてが出来上がったみたいだから、取りにいってくる」と言いながら席を後にした。
 するとチャッピーが、
「あれ、こんなところに小鳥がいる……」
 ふと見ると小鳥が止まっている客は、背の低い男の子だ、私と同じような年齢なのだが、しっかりとした身なりに包まれ、どこか凛々しさも併せ持っている。
 小鳥を携えているやんごとなき少年は確かに私と挨拶しようとした。しかし微妙なタイミングで他の人と会話を始めていたので、そのままそっけない素振りで  その場を凌ぎ、おいしそうな料理を皿に盛るとアヤさんがいるテーブルに運んだ。
 私に対し「あんがと」と言いつつ相変わらず珍しい食事を頬張る綾香さん。
 テーブルにある料理を戴くと、そこそこお腹がいっぱいになったので、腹ごなしと他の参加者との交流を図るために、階段上の踊り場へ向かった。
「黒狗会のアカツキです。よろしくお願いします」
「僕は、トゥーティリアです。よろしくね」
 アカツキは小鳥を携えている男の子と挨拶を交わしている。そうしてふと、トゥーティリアの後ろから顔を覗かせている少女にも気づく。売店のところでハムスターに触ってびっくりしたことから覚えていた彼女。
 名前までは出てこない。サミットに参加している割には、年端もいかない、保護者もいなさそうな少女に声をかける。
 すると売店で一度会ったことのある青年が私に向かって、
「君はたしか……」
と話しかけてきた。
 男性の姿を見るなりチャッピーは、
「売店で僕をやすやすと触ってきた人だ」とほざいていたが、改めて見ると結構カッコいいではないか!こういう人と知り合えば今回の旅行も安全でかつ楽しく過ごせるのかもしれない。
 こういった打算の上で私は、
「はじめまして、日本から来た杉野麻美です。私の肩に乗っているのがハムスターのチャッピーです」と自己紹介をした。
「あなたは黒狗会のアカツキさんですね。さっきあなたが別の男の子と話していたのを聞いて名前を確認しました。あなたとは何回かすれ違ったけど、こうしてゆっくりと話し合えるのは初めてですね。私と同じ日本人かアジア人みたいですので、こうしてアメリカで出会えるのは何となくホッとします」
 とりあえず無難な挨拶を交わしてみた。
「そういえば東洋人の割合は少ないかな」
 麻美に言われて周囲を見渡す。東洋人も少ないが、こうして見てみると異世界の住人もけっこういる。なるほど、一般人の割合は少数のようだ。
「そのチャッピーとふたりだけでアメリカに来たの? 勇気あるね」
 最近の日本人のアクティブぶりにびっくりしながら、少しお話をしてから部屋に戻った。
 私はアカツキさんと少し話をした。確かに多種多様な世界から来ている身なので私たちと同じ文化圏に住んでいる人と知り合えただけでも収穫だと思った。
 食堂に戻ったら、相変わらず綾香さんはテーブルいっぱいにデザートを並べて、
「麻美さんも食べたら?このゼリー超おいしーんだから!」
 お腹は満腹だがデザートは別腹とは良く言ったもので、小皿に山盛りのゼリーを平らげようとしている。
 食堂を一望すると、たいていの人は食べ終わっていて、部屋に帰る人が目立っている。
「私たちも部屋に行きましょう」
「もっと食べたいー!」
「ならばこの辺にある容器にゼリーを詰めて、部屋に持って帰れば?」
 半分口からでまかせを言ってみたが、素直にそれを実行した綾香。もしかしたらそれが地なのかもしれない。
 こんなにおいしい料理を山ほど食べてあたしは幸せだった。さらに色々な国のイケメンたちとも話が出来たし、おそらく今年一番楽しかった一日なのかも。
 そんな一日が終わる。ここにきて知り合った麻美さんと一緒に客室に向かう。手には容器いっぱいに入れたゼリー。(寝る前にゼリーを食べよっと)と思った。
 偶然なのか国ごとに部屋を分けているのか、あたしと麻美さんの部屋は隣同士だった。
「また明日ね」
 麻美さんがそういうとあたしも
「そうだね。お休み」
と言った。
 このホテルの客室にはじめて入ったが、本当に豪華だ。一人でこの部屋を貸し切れるのが贅沢なくらいだ。まあここはアメリカなので、いつも家で見ているテレビ番組は放送されず、英語ぺらぺらの番組ばかりなのですぐに電源を消した。
 本当に男友達の何人かで過ごしたいくらいだ。けどたまには一人でゆっくりするのもいいと思い、ふかふかのベッドに入った。

    次へ   戻る