ふと店内の壁を見ると、数日前にはなかった大きな張り紙が数箇所に掲示してある。
【お客様各位
平素は当店をご利用いただきまして誠に有難うございます。
当店は当地に開店以来30余年地元の皆様に愛されてきましたが、諸般の理由により当店は
今月末日をもって閉店とさせていただきます。長い間のご愛顧誠に有難うございました。
スーパー大川 店主敬白】
(この店も閉店するのか……便利だったのに……)美佳は心の中で思った。
店員に訳を聞くと、店の老朽化と共に、昨年近所に開店した大手スーパーが開店して客層が流
出して売り上げが落ちたのでやむ無く閉店するとの事。
最近は地元商店が郊外に進出した大型スーパーに押されて閉店したり廃業したりしてる。以前
住んでいたアパートのあった駅前商店街も半分以上シャッターが下りている状況だった。
特にここの店のような一個人の経営している店は質・量ともに大型店には太刀打ちできない。
淘汰と言えばそれまでだが、あまりにも地元住民を切り捨てているな、と感じた。
私のように若くて自動車がある人なら郊外に買い物に行けるが、高齢者にとっては不便になって
しまう……商店街も今は形骸化して、昔の賑やかだった面影が失われている。最近の社会現象か
らして仕方ない事なのかな・・・と思った。
美佳は閉店特価になっていた冷凍食品数点を買うと店を出た。
(これからはまた郊外のスーパーに行かないと……)と思った。
マンションに帰って、友之に近所のスーパーが閉店することを話した。
「そうか。あの店も時代の波には勝てなかったか……。で、来週からはどうするんだ?」
すると美佳は、間髪を入れずに、
「今度から郊外にできた大型スーパーで買い物しましょ」と答えた。
「また一週間分の買いだめか。ま、俺にとってはいいけどさ」と言った。
そして友之は、「そうと決まったらこれからそのスーパーに下見にでも行くか!」と話すと美佳は有
無を言わず賛成した。 友之は普段はバスや電車通勤なので、自動車は休みの時しか使わない。
更に友之が出不精なので乗ったにしても近所のスーパー程度なので走行距離もあまりカウントして
いない。
自動車はいつもはマンションから約200m離れた民間駐車場に停めてある。
「自動車だってたまには乗らないとストを起こすからな」と友之は冗談交じりで笑った。
二人は車で15分の所にある大手大型スーパーに行った。
確かに大きな駐車場に沢山の車が止まっている。店内も色々なテナントが出店していて活気に満
ちている。
電気店や薬屋、本屋まで同じ敷地内にあるので、本当にここだけで衣食住十分事足りてしまう。
スーパーマーケットや数種類の大型専門店を郊外にまとめて設置した最近流行の形式であり、い
わば平成時代の商店街といった感じか。
今回は特に買うものがなかったが、食品売り場では数種類の試食を頂戴し、ただ店内を見回るだ
けでも意外と楽しかった。
ついでということで今日の夕飯の惣菜を買って帰途に着いた。
「また来週からここで一週間分の買い物をしましょ」美佳が言うと、
「また来週から一週間分の食品をダンボールに詰めて家まで運ばなくちゃならないな」と友之は苦
笑した。