北村は少しの間考えた後、
「ならば俺のホームページに西原の小説を載せてやるよ!」と一言。
「昔のガリ版刷りよりもパソコン入力は簡単だし、過去の償いも出来る。もしよければ【旧
友の作品コーナー】として西原の作品も紹介してもいい」
北村の計らいに、西原は感激した。
自分が到底することの出来ない【ホームページ運営】をしている北村を尊敬し、彼のホ
ームページに間借りをする形でありながらも、自作の小説を無料で公開してくれると言う
からだ。
むしろ西原にとって重ね重ね北村に感謝しなければならないと思っている。自分の人生
のレールを引いてくれたのも北村だし、自分の過去の【成し得なかった夢】を実現してくれ
るのも北村である。
すっかり時間が過ぎてしまった。
西原は北村に自著のコミックを贈呈し北村は西原の作品を自らのホームページでの公開
を約束した。満面の笑みで二人は喫茶店を後にした。
北村は膨大な数の西原が書いた原稿用紙が入った紙袋を持って家路に向かった。
その日の夜。
北村は家に帰ると書斎で西原の作品を少しずつ読み始めた。高校時代の作品は今から見
れば稚拙であるが、北村がいくらがんばっても書けないようなSFや学園コメディー作品が特
徴のある几帳面な文字で書かれていた。
一つ一つ作品を読み返し、俺より書き方が上手だなとか、この結末はちょっと安直だな、と
自分勝手な批評を口にしながら西原作品の世界に没頭した。そしてやはり小説家を目指す
人の作品としてはやや甘いな、と言う結論にまで達した。
所詮は素人の意見で、北村の嫉みや独断も含まれるのだが。
翌日から自分の時間の空いている時間や寝る前に西原の作品を少しずつパソコンで入
力し、半年後全作品を自らのホームページに公開するまでに至った。
早速西原に、自分のホームページに設置した西原作品集のページを印刷し郵送した。
数日後北村の元に、
「これで俺も高校時代から抱き続けた【小説家】の夢が曲がりなりにも叶いました。北村君
本当に有難う。そしてご苦労様」との達筆のはがきが届いた。
北村と西原との交流は今でも続いている。もはや二人はライバルではない。お互いの心
の裏も分かち合える親友である。少し前まで北村の心にチクリと刺し続けた罪悪感も消え
去り、過去の輝かしい思い出に変わった。まさに【災い転じて福と成す】である。
二人は結果としてプロの小説家にはなれなかったが、今ではお互い【オンライン作家】とし
て趣味としての小説を書き続けている。たとえ小説で生計を立てていなくても、誰かが自分
の書いた作品を誰かが読んでくれると言う事だけでも嬉しいのである。
季節は移り秋になった。また西原から手紙が届いた。
「北村にはいつもお世話になっています。俺の作品の感想もわざわざ送ってくれて有難う。
実は今、北村の行動力を見習いパソコン教室に通っています。いずれは俺の作品を載せた
ホームページを作りたいものです。ところで今は京都・嵐山の紅葉が見事です。近いうちぜ
ひ関西にも遊びに来てください。家族一同心待ちにしています……」
屋根裏の書斎の窓からも木々が色づいているのが見える。宇治茶を飲みながら「いつか
京都観光を兼ねて西原に会いに行きたいな……」とつぶやく北村であった。
【完】
参考資料:昭和の時代(小学館)・夕焼けの詩(小学館)
全国時刻表 昭和38年10月号(日本交通公社)
「ならば俺のホームページに西原の小説を載せてやるよ!」と一言。
「昔のガリ版刷りよりもパソコン入力は簡単だし、過去の償いも出来る。もしよければ【旧
友の作品コーナー】として西原の作品も紹介してもいい」
北村の計らいに、西原は感激した。
自分が到底することの出来ない【ホームページ運営】をしている北村を尊敬し、彼のホ
ームページに間借りをする形でありながらも、自作の小説を無料で公開してくれると言う
からだ。
むしろ西原にとって重ね重ね北村に感謝しなければならないと思っている。自分の人生
のレールを引いてくれたのも北村だし、自分の過去の【成し得なかった夢】を実現してくれ
るのも北村である。
すっかり時間が過ぎてしまった。
西原は北村に自著のコミックを贈呈し北村は西原の作品を自らのホームページでの公開
を約束した。満面の笑みで二人は喫茶店を後にした。
北村は膨大な数の西原が書いた原稿用紙が入った紙袋を持って家路に向かった。
その日の夜。
北村は家に帰ると書斎で西原の作品を少しずつ読み始めた。高校時代の作品は今から見
れば稚拙であるが、北村がいくらがんばっても書けないようなSFや学園コメディー作品が特
徴のある几帳面な文字で書かれていた。
一つ一つ作品を読み返し、俺より書き方が上手だなとか、この結末はちょっと安直だな、と
自分勝手な批評を口にしながら西原作品の世界に没頭した。そしてやはり小説家を目指す
人の作品としてはやや甘いな、と言う結論にまで達した。
所詮は素人の意見で、北村の嫉みや独断も含まれるのだが。
翌日から自分の時間の空いている時間や寝る前に西原の作品を少しずつパソコンで入
力し、半年後全作品を自らのホームページに公開するまでに至った。
早速西原に、自分のホームページに設置した西原作品集のページを印刷し郵送した。
数日後北村の元に、
「これで俺も高校時代から抱き続けた【小説家】の夢が曲がりなりにも叶いました。北村君
本当に有難う。そしてご苦労様」との達筆のはがきが届いた。
北村と西原との交流は今でも続いている。もはや二人はライバルではない。お互いの心
の裏も分かち合える親友である。少し前まで北村の心にチクリと刺し続けた罪悪感も消え
去り、過去の輝かしい思い出に変わった。まさに【災い転じて福と成す】である。
二人は結果としてプロの小説家にはなれなかったが、今ではお互い【オンライン作家】とし
て趣味としての小説を書き続けている。たとえ小説で生計を立てていなくても、誰かが自分
の書いた作品を誰かが読んでくれると言う事だけでも嬉しいのである。
季節は移り秋になった。また西原から手紙が届いた。
「北村にはいつもお世話になっています。俺の作品の感想もわざわざ送ってくれて有難う。
実は今、北村の行動力を見習いパソコン教室に通っています。いずれは俺の作品を載せた
ホームページを作りたいものです。ところで今は京都・嵐山の紅葉が見事です。近いうちぜ
ひ関西にも遊びに来てください。家族一同心待ちにしています……」
屋根裏の書斎の窓からも木々が色づいているのが見える。宇治茶を飲みながら「いつか
京都観光を兼ねて西原に会いに行きたいな……」とつぶやく北村であった。
【完】
参考資料:昭和の時代(小学館)・夕焼けの詩(小学館)
全国時刻表 昭和38年10月号(日本交通公社)