第9節 グループ結成
 昼休みの学食。たいていの生徒は昼食を食べたらそれぞれの教室に戻ってしまう。しかも男子
生徒の大半は【早食いが芸のうち】という風潮がいまだにしぶとく残っているので、昼休みも20分
経過すると食事をしている生徒はほどんどいなくなる。
 だからこそこれを逆手に取り、人が少なくなった学食で心置きなく談笑するグループもある。
言わずもがな安達佳宏君たちのグループだ。3人は同じクラスでありながら、空気を読めないリー
ダーのおかげで教室内にいづらくなる事もたまにあり、いっその事昼休みは学食に居座ろうと大そ
れた事をなしえている。功を奏すようになったのは2学期も本格的に始動した9月13日だった。
 9月12日、佳宏は悟に、
「明日の12時30分、顔合わせ会&岡村兄妹歓迎式を始める。悟君の知り合いとサナちゃんの知り
合いを一堂に会して心置きなく語り合おうではないか」
 と告げた。売れっ子女優の御曹司が音頭をとるのだから、きっと何かが起こるだろうかとひそか
に期待をした。まあ学校内だから派手には行わないだろうとも思った。
 昼休みが終わる直前、沙奈に廊下で偶然会った。さっきの事を話すと、
「なかなか面白そうじゃない。私の友達に声かけてみるよ」
 と話すと教室に入った。
 それを聞いた幸親が、
「岡村君、さっきの話は一体?」
「C組の安達君の提案で、僕たちの編入歓迎式を行いたいと」
「あいつもなかなか粋なことをするじゃんか。面白い。オレも乗っても良いかな」
「もちろん。僕の友達なら大歓迎さ」
「さすがは話が良く分かる」
 聞いてみると幸親と佳宏とは親が古くからの知り合いで、前からお互い顔は知っていたが、
ひょんな事がきっかけで、馬が合わないと幸親が勝手に判断した結果疎遠になり、麻布が丘高
校に入ってからも、それと言った接点を持たないで今まで過ごしていたらしい。
 悟の知り合いといったら、あと一人いる。新聞部部長の金井桜子さんだ。しかし彼女は他の生徒
と比べ性格も違うし、接点も悟と安達君くらいだ。沙奈や千代田彩華さんたちと話が合うかどうか
心配になった。万一桜子に「あなたたちとは世界が違うのでお断りします」と言われたらどうしよう
か、とも思った。
 けど、初めて部室で会ったときに「一度安達君にお礼を言いたい」と言っていたから、それだけで
も叶えさせようと思い、思い切って伝えてみた。
 しかし今日は部活の日ではない。しかし期日は明日だ。悩んだ挙句、昔の青春ドラマの例を参
考にした結果、誘いの手紙を金井さんの下駄箱に忍ばせると言う古典的な手法をとった。
(果たしてうまくいくか?)と悟は思った。
 9月13日。登校時に沙奈が、
「昨日の話、2人ともOK取れたよ」
 これで8人が確定した。残るは金井さんだ。果たして12時半に学食に来てくれるか?
 12時10分。いつもどおり学食に行くと、既に安達トリオが隅のほうに陣取っていた。これと言っ
て特別な用意はされてないみたいだ。
「まずは4人集合。野郎ばかりだけど」
 何となく覇気がない声で圭がつぶやいた。
 4人で学食の【ボリューム満点定食】を頬張っていると、
「ここでいいのかな〜」
 女の子の声がしてきた。
「沙奈か。こっちがあいているよ」
「はじめまして〜〜!」
「元気してた?」
「久しぶりだな……」
「みんな、はじめまして!」
 さすがに女の子がやってくると一気に明るくなる。
 悟の予想通り、千代田彩華さんは明るくはきはきとしていて、唯崎ほのかさんは子供っぽい。
 ただ気になったのは以前付き合っていたと言う佳宏と彩華の関係がどろどろとしてなく、意外と
クールな状態を維持していたのだった。【学食内で因縁の再会】といった構図にならなくて本当
に良かった良かった。
 数分後、
「おお、ここか」
 伊勢幸親がやってきた。さすがに女性陣は幸親の顔を見るや否や一斉に瞳が輝きはじめた。
単なるイケメンではない独特の顔立ちなので女の子の注目を集めるのは当然だ。ただ今までは
あまりグループ活動をしない孤高の存在だった。だからこうもてるとなると幸親自身もまんざら悪
くないなと感じてきた。
 これで8人揃った。
 12時28分、9人目がやってきた。
「岡村君ですね。ここで会合があるとメモに書いてあったので……」
「そうです。僕たちの編入祝と言うことで」
「皆さん御揃いで……こんな私でも仲間に入れてもらって大丈夫ですか?」
「硬いこと言いっこ無し!」
「そーそー。金井さんも私たちの仲間ですから!」
「そうだ。俺たちのグループのモットーは【来るもの拒まず】さ」
「って、いつからこんなモットーが出来たの?」
「今作った」
 さすがにこういう時でも佳宏の話術は冴えている。
「これで全員揃った事になるのかな?」
「そうです」
 悟が宣言すると、またもや佳宏が
「9月13日。オレたちグループの設立記念日だな」
 大げさだな、と一同思ったが設立記念日と言う言葉が妙にしっくりくる。
「北海道からやってきた岡村兄妹のおかげで9人と言う大所帯になった。更に今回わが高の秀才
ナンバー1の金井さんが入ったことで鬼に金棒になった」
「とか何とか言って勉強を教えてもらいたいんじゃないの」彩華がすかさず突っ込んだ。
 佳宏の返す言葉が出ないのをみて、彩華は得意面になった。
「けど、あたしたちも金井さんが仲間になってくれるならうれしーな」
「ありがとうございます。あなた達の足手まといにならなければいいけど……」
「大丈夫だって。ここにいる男の子たちもみんなやさしそうだし、ま、取り扱い注意ボーイが一人い
るけどネ」
「それってひょっとしてまさか?」佳宏が自分を指差した。
 しかし女性3人組は「さ〜ね〜!」と答えるばかりだ。本当に沙奈・彩華・ほのかは会って日が
浅いのに息が合ってきている。
「まあまあ、争いは放課後にするとして」幸親がその場を仕切った。
 9人が軽く自己紹介を済ますと、圭と博樹がどこに用意してあったか缶コーヒーを全員に配った。
 そして誰もいなくなった学食に透き通る声が響く。
「僕たちのグループ結成と編入祝に乾杯」
「乾杯!」
 缶コーヒー黎明期に販売していたような甘ったるい味だ。きっとこのグループのメンバーがこれか
らずっと甘い関係でいられるように特別にあつらえたものなのか?
 確かに配られたのは少し前まで千葉県と茨城県南部限定販売だった、練乳入りのコーヒーだ。
おそらくこの日の為に用意したのだろう。
 麻布が丘高校で9人メンバーのグループが華やかに出来上がった。
 悟も沙奈も、そして他のメンバーも今日結成されたグループがずっと続き、あまよくばこのメンバ
ーの中で恋愛に発展できれば嬉しいな、と思っているに違いない。
【第一章 完】