第2章 9人グループ始動

第1節 みんなつながっている

 早いもので岡村兄妹が麻布が丘高校に編入になって2週間経った。
 少しずつこの高校の特異性が分かってきた。最初のうちは生徒の富豪ぶりや一般的な高校と
の差異やギャップから「凄い所に入ってしまった」という気持ちであったが、だんだんとそれが普通
のように見えてきてしまうのだから慣れは不思議なものだ。
 もう高級車に乗って登下校する姿も当たり前のように感じ、ブランド服に身を包まれている生徒
も友人になっている。
 友人と言えば、悟と沙奈が2人とも入っているグループも実に個性的なメンツが揃っている。都
内一のお嬢様高校と言う名にふさわしい美女と、彼女好みであろうイケメンが揃っている。そして
更に驚いた事に、その7人は、親が何らかのつながりを持っていた。まあ、金持ち高校だからと言
う事から、親たちの交友範囲もある程度限られてしまうからかもしれない。
 島根県出身で親元を離れ上京している金井桜子以外は、全て都内・山の手地区在住。
 安達佳宏の母親は言わずもがな女優の安達麻紀さん。それに勝るとも劣らず著名人なのは、
唯崎ほのかの母親で、一流デザイナー。過去に多くのスターの衣装をデザインした事で知られて
いる。
 芸能界だけが著名人というわけでは全く無い。
 伊勢幸親の父親は衆議院民自党所属の国会議員。もっとも大臣レベルではないが、日本国を
動かす立役者である事は確かだ。また幸親の父は政財界に留まらず交友範囲が広く、佳宏とほ
のかの親とも交流がある。
 千代田彩華の親は都内で病院を経営し、鈴原圭の親も医師だ。この2人が医者の子だという事
は夢にも思わなかった。しかし医者の家は金持ちが多いと言う話は聞いた事があるので、こう言
う事もありうるらしい。つまり東京の医師会を通じて親も存じ合っている事も目に見えている。
 そして諸星博樹の家は恵比寿で居酒屋を経営している。立地の良さから著名人も利用してい
る。と言うことで他のメンバーの親も贔屓にしている。
 ついでに桜子の親は安達麻紀さんのファンだったりする。こうなると全てにおいてつながってい
る要素があった。ただ高校ではクラスが別と言う関係から、なかなか交流できる場がなかっただ
けに過ぎない。
 親ではつながりがあるのに、子供が仲が悪いと言う事例はどんな環境でもあるみたいで、金持
ち高校でも例外ではなかった。
 けど子にも交流が出来たのも岡村兄妹が編入してきたからこそである。2人が北海道にずっと
いれば、更に言えば北海道航空システムの社長が麻布が丘高校の校長と懇意でなければ今で
も別々に行動していたといっても言いすぎではない。
 確かに佳宏のグループや彩華&ほのかのように長い友人でいる人はいたが、男女混合の大
所帯は誰しもが初めてだ。こういう環境で、しかも美男美女ぞろいと言う事なので、いつカップル
が誕生してもおかしくない。まあ、中にはこれが目的でグループに入っている人もいるのだが。
 けどまだ結成したグループでありながらも古くからの仲間のように親しくなっていった。これも皆
屈託もなく気さくな性格だからかもしれない。
 さすがに9人集まるというとなると、時間や場所が限られてしまうが、男女別々のグループなら
揃いやすい。
 週に何回かは学食で全員集まる機会を設けて、男女ごとには毎日のように会える。と言うか昼
の学食ではすぐにも5人集まる環境だ。それだけ学食と言う場所は【男の集会所】のようなイメー
ジになっているのかもしれない。
 しかし女子となるとなかなか4人揃わない。
 それもその筈。桜子は新聞配達をしながら通学していて、しかも学校が終わっても集金業務を
するからだ。もっとも桜子が働いている新聞店は浜松町にあるので麻布からも近い。と言うか桜
子と接点が強いのは悟と佳宏なのであるが、秀才と言う点から、彩華たちともだんだんと仲良くな
り始めている。

 新聞配達をして生計を立てている桜子以外は金持ちの子なので、とにかく金使いが荒い。
〔金持ちの坊ちゃん譲ちゃん〕は昔から財産を食いつぶすと言われているが、平成時代でも江戸
時代の若旦那とまでは行かないものの、金銭感覚がかなりルーズだ。
 金の使い道が多彩なのは勿論女の子で、六本木や渋谷に買い物に行くと平気で万単位の商
品を買っていく。彼女の財布から諭吉が惜しげもなく消えていく。
 この前沙奈と彩華とほのかとで銀座にショッピングに行ったら、ン十万円の値札が付いたブレ
スレットを彩華が買っているのだ。それを見てまだまだ庶民の感覚が残る沙奈は唖然として返す
言葉がなかった。
 それ以前に沙奈は数ヶ月前までは普通の高校生だったので小遣いも人並み程度しかもらって
いない。なので2人の買い物に付いて行っても何も買わずに帰るのが常になっている。まあウイ
ンドーショッピングだと半分は開き直っているのだし、それはそれで結構楽しい。
 彩華やほのかのような金持ちの子供なら一流デパートでないと買うことが出来ないのかな、と
思ってしまう。嫉みに近いのであるが友達なので面と向かって言えない。
 そう言う沙奈も、友人としての恩恵を時々受ける。ほのかから着られなくなったワンピースを譲
ってもらえるからだ。しかも一流ブランドでかなり派手なデザインだ。スリムなほのかだから、たと
えお古をもらったとしても沙奈には小さかった。そのためほのかの知り合いの人に沙奈にぴったり
に仕立ててくれたのは幸いだった。
 まあ万単位の服を無料でもらえるのだから贅沢言ってはいけないのだと思うのだが、やはりほの
かのスリム体型には憧れる……。

【続く】