第7節 クラブ活動
 その日の夜。
 悟は昼に佳宏達と話し合った内容についてさりげなく沙奈に尋ねてみた。
「お昼に学食で安達君たちに会っただろ。その時に沙奈が、『昨日アヤさんの後ろで遠巻きに見
ていたでしょ!』と言ったじゃん。と言うことは千代田さんのこと知っているの?」
「知ってるの何も、新学期当日朝礼の時からの友達よ!」
「そうだったんだ。すごく早いね。僕も新学期当日友達が出来たけど」
「それで、話って一体?」
「実は佳宏の親友が千代田さんに恋しているんだ」
「あの時遠巻きで見ていた中の2人ね。確かに私が見てもかっこいい子だったよ。私もあの子な
ら付き合いたいなー」
「本当?じゃあ一度会わせてみたいね」
「けど、安達君とアヤさんって前付き合っていたんだよね」
「僕も聞いた。けど別にお互いが嫌いになって別れた訳じゃないから、何とかなるんじゃないの?」
「私の友達がアヤさんともう一人いるの。悟と同じクラスの子で……」
「えっ?誰?」
「唯崎ほのかさん」
「ああ、クラスで自己紹介したから知ってるよ。彼女、かなり美人だね」
「そりゃ勿論アヤさんの友人だから」
「そうなんだ、今度ゆっくり話がしてみたい」
「そうだね。私の友人だから安心する。私の知らない子だと少し嫌だったけど」
「女って、そんなものなのか……」
「とにかく、何人か集まってワッと語らうのもいいかも」
「これって結構いいかも。仲間は多いほど楽しいしね」
 交渉は成立したようだ。近いうちに悟と沙奈の友人を引き合わせる運びになった。
 翌日の学食。昨日と同じ席に3人が座っていた。悟は近づき、
「よう!昨日振り」
「こんにちは!」
「昨日の件を妹に話したら『いつか私の友人を集めて会いましょ』って」
 圭と博樹はこの言葉を待っていたかのようだった。
「ありがとう」
「これからもよろしくな」
「これで4人は仲間だ。うん、……青春は素晴しい事哉……」
「安達君、なに気取っているのですか?!君だって青春真っ只中じゃない!」
「最強のトリオだな……」
 悟は苦笑した。幼なじみってこういうバカな事も平気で出来るのだから羨ましい。
「今日の昼飯はおごるよ」
 圭はもう上機嫌だ。佳宏や博樹のようにイケメンではない圭にとって女性と会う機会を設けても
彼女が出来る確率は100%ではない。しかし先走る希望と興奮が頭のどこかに燃え滾っているの
であろう。
 悟も思わず口からこぼれ出た。
「うん、若いってすばらしい」
「岡村君こそ若いじゃないか」
 博樹のツッコミが見事にヒットした。
 そう喋っている間にテーブルの上には山盛りのカツ丼がセッティングされた。
 カツ丼大盛り480円。大盛りのカツ丼の上に更に卵とじのカツがデーンと盛られている。
「はっきり言って軽く2人前以上のボリュームで、これ全部食うと他の食べ物を見たくなくなると言う
代物だ。心して食うがいいぞ」
 北海道の高校にも似たようなメニューがあったが、値段の割には食材が高級そうで、見るからに
おいしそうだ。良く見ると佳宏たちも同じ物を注文していて、既に同じような丼の山が3つ並んでいる。
(カツ丼山脈だ……)そう思いながらも4人は一気に丼にかじりついた。
 10分後。
「ああ、食った食った!」
「腹いっぱいで水も飲みたくない……」
皆満足している。佳宏も顔がほころんでいる。悟が食べ終わるのを見越して、
「これで本当に俺達の仲間だ!」
このグループは仲間に加わる条件として【学食のカツ丼大盛り】の完食がある。と言っても佳宏の
キャラがかなり個性的なので、長い間このグループは新しいメンバーが加わる人はいなかった。け
ど【幼なじみ】の結束だけで成り立っているので、カツ丼大盛りも単なる3人の定番かもしれない。

 一週間後。
 岡村兄妹は担任からから一枚の書類を渡された。
 校長からの通達書で、一週間以内に何かしらの部活に入るようにとの事だ。
 私立高校なのでクラブ活動が盛んなのは頷けることかもしれない。
 オリエンテーションの時にもらった学校案内に、部活一覧が明記されている。20ある部活の半分
以上が運動部だ。
 沙奈は有無を言わず友人である千代田彩華と唯崎ほのかが入っているテニス部に決めた。何し
ろこの前六本木に行った時からテニスの話をしていたからだ。沙奈は激しい運動以外なら一通り
はこなせる自信があったので有無をいわず入部を決めた。
 そして翌日校長とテニス部顧問に入部の届出を出した。
 その日の放課後、沙奈は2人にその事を伝えると、
「サナさんテニス部に入ったんだ!」
「今度一緒にダブルス組もうね」
「うん!一緒に頑張ろう」
 一方悟は部活に入るのはまだ決まっていない。それもそのはずで、北海道の時は帰宅部だった
からだ。別にスポーツが嫌いと言うわけではないが、部活に入ると制約が厳しくなるし、個人的に
何となく面倒くさいと感じるのである。
 一応友人に話しかけてみる。
「部活?!俺はバスケだ。バスケはいいぞ。バスケは漢(おとこ)のロマンだ」
 幸親は得意げに語る。彼なら確かに背が高いから、バスケットボールは適しているだろう。
 佳宏は、
「うちらはサッカー部だ。うちの部活はアットホームでいいぞ。と言っても別にアヤシイ事をしてい
るわけではないから勘違いするなよ!」
 隣で博樹がうなずく。2人は同じ部活に入っているのか。なるほど。
 そんでもって圭は髪型だけで一発で分かる野球部だし。
 今回の部活に件に関しては友人とはちょっと一線を画すかな、と感じた。けど別に友人だから
必ず同じ部活に入る義務はどこにもない。
「となると僕に合うのは文化部だな……」
 放課後。多くの運動部が賑やかに活動しているのを見ながら文化部室棟に入ると【新聞部】と
書かれた部室を見つけた。
【続く】