第12節 修学旅行4日目

 夕張での朝。
「さあ、今日も良い天気だ。張り切って行きましょう!」
 なぜか元気が良いのが佳宏と圭。それもその筈で、前日の昼間からゆっくりとホテルに滞在して、
お風呂に入ったり、部屋でのんびりしていたりていたので、旅行の疲れが取れたらしい。
 午前9時、昨日のような大型のバスが夕張のホテルに到着した。これは別の班が旭川方面から
夕張に来ただけであり、岡村班は乗車しなかった、というか出来なかった。その代わりに来たのは、
中型タクシーだ。
 次に行く目的地が、日高山地を越えた太平洋側であり、峠道が大型バスが通れない地域だから
らしい。そのタクシーは、地元の会社が運営するものであり、運転手ももちろん地元の人だ。
「えーと、アサヌノが丘高校の生徒さんですよね?」
「そうですけど、アサヌノではなく、アザブと読むのですよ」桜子がこう言った。
「あ、そうでしたね。申し訳ない。それでは、アザブが丘高校の皆さん、どうぞ御乗車下さい」
 乗り込むと、早速幸親が、
「うちの高校って、地方では知られていねーらしいな」
「しょうがないよ」悟が答えた。
 タクシーに乗ること数時間。3日目の滞在地である静内の町に入った。
「ねえ、何でこんな何もなさそうな小さい町を選んだの?」とほのか。
「ここ日高地方は、国内有数の馬の産地なんですよ」
 佳宏の顔をちらちら見ながら悟が答えた。
 それに反応したのか佳宏が
「馬と言えば競馬!」
「そう。ここはサラブレッドの産地で、優秀な名馬も育った牧場もあるんだ。この牧場に行って牧場
体験をしたり乗馬をしたりするんだ!」
「それって、馬好きの教師達にはポイント高い場所ジャン?ここのレポートかいて提出すると良い点
くれるとか?」彩華の目も輝いた。
「…まあ、そうかもしれない」とこれには返答に困った。
 と話している間に、観光牧場に到着した。
「麻布が丘高校の修学旅行の方ですね。お待ちしていました」
 やはりここでも観光案内係の人が歓迎してくれた。
 かなり広い施設で、雄大な北海道ならではと皆思った。
「私どもの施設は、名馬を今までに何頭も輩出している牧場であり、かつ観光牧場として乗馬体験
の他、公園や宿泊施設も整っています」
「ほう、ここも立派な建物だ」と圭。
 ここで悟はある事に気づいた。確かに設備の整ったところは環境も良い。けど設備がよくなくても
素朴なところでも良いはずだ。東京の金持ち高校の生徒に見せるから、最高級の施設でないといけ
ないと言う考えなのか?まあ、家の教師のことだから半分くらいは見栄があるとは思うが。
「と言う事で、今回生徒様に体験していただく内容は、育成牧場の見学と乗馬、午後からは、簡単な
厩舎での仕事体験を行います。その後の施設利用や、近隣牧場での体験も出来ます。なお、宿泊は
当館宿泊棟になります」
との説明の後、早速育成牧場へ向う一行。
 牧場は広大で、本当に絵葉書のような綺麗な風景だ。競走馬を育てているところなので、牧場の
他に調教場である馬場やダート・坂場など立派な設備がある。男性陣は、競走馬育成ゲームでし
か知らない牧場や調教場の様子を直に見る喜びを感じ、女性陣は広い敷地と、馬達の愛らしくも
勇ましい姿にしばし癒されていた。
 実際に訓練をしているところも特別に施設を見学してもらい、メンバーは皆満足している。ここな
ら他の班にも自慢できる、と思っている人もいるとかいないとか。
 元の施設に戻って、乗馬体験。いくらお金持ちの子息とは言っても、マンガの世界のように乗馬
に凝っている人はいない。なので皆乗馬は初めてだ。
「ここの馬は大人しいのばかりですので安心してください」
 と係員から説明を受けると、着いたのは乗馬コース。やはり北海道で、関東近辺にあるような狭
いコースではなく平原といっても良いほど広い。ここでの乗馬は、馬が慣れていると言うか、教える
側が丁寧なのか、すぐに乗る事が出来た。
「思ったほど快適だわ」と沙奈。
「ならば、このまま放牧地に行って、引退した名馬に逢いに行きましょう」
と係員が提案すると、放牧地の先へと向った。高校生なので、競馬はあまり親しみはないが、名馬
がノビノビ余生を送っている姿を間近で見る事ができ、貴重な体験を得た。
 そして午後からは、本日最大のイベントである厩舎体験だ。高校側の計らいで特別に許可され
た体験であり、普段は絶対に出来ない体験とも言える。
 全くの素人なので、簡単なものがプログラムに込みこまれている。調教中の競走馬の厩舎で、
馬の餌や水の補充、藁の交換、場内整理といった単純なものだ。最初は馬独特の匂いや糞に
唖然としたが、次第に慣れ、ある程度こなす事が出来た。けどやはり女子にはきつい作業で、特
に彩華は、体験中は黙っていたが、厩舎体験が終わるなり、
「早くシャワー浴びて体の匂いを取りたい!」とほざいていた。
 厩舎体験が以外と手間取ったのか関心があったのか、日が傾きはじめるまで続いた。その為、体験
終了後、一目散に温泉に向った女子と、名馬牧場散策をした男子とで対照的な自由時間を過ごした。
 まあ、それでも日頃味わえない貴重な体験や見学をする事が出来、有意義な静内での一日であっ
たと言えよう。
「明日で終わりだね」
「結構早く過ぎて行ったな」
「北海道最高」
レストランでめいめい思いを語り明かした8人メンバー。さあ、明日は最終体験地の苫小牧だ。
【続く】

参考サイト:優駿ビレッジAERU http://www.lilac.co.jp/aeru/
JRA日高育成牧場 http://www.jra.go.jp/hidaka

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