第11節 修学旅行3日目

 3日目、滝川の町中にあるホテルに、一台のバスが止まった。
【私立麻布が丘高校 御一行様】
 班行動専用の送迎バスだ。さすがに金持ちの高校は違う。広い北海道を効率よく回る為に、
班ごとのコースで近い所を取りまとめて巡回バスを走らせているのだ。
 いつものメンバーもバスに乗り込んだ。
 2日目で札幌から散り散りになった17班のうち、旭川近辺で5つくらいの班がいたのだ。それ
だけでも、何となくおさななじみに出会えた感動すらも覚えた。
 バスが発車して10分後、旭川に到着。そこで半分以上の班が下車し、そしてまた1つの班が
乗車。いわば班行動にとっての重大な交通機関としての役も果たしている。
 旭川の町を過ぎると、次第に山の中に入っていく。
 数時間後、夕張に到着した。岡村班は、ここで下車する事になっている。
 駅前には、また昨日のように、市の観光課の職員が待ちかねていた。
「麻布が丘高校の皆様、こんにちは」
「こんにちは」
「夕張へようこそ。それでは本日の体験施設に御案内します」
ワゴン車に乗り込むと、小さい夕張の町を進む。
「静かなところだな」圭がつぶやく。
「さようですね。御存知かもしれませんが、夕張市は昨今、市の財政が破綻しましたが、様々な支
援と観光産業などによって維持しております」
 職員も現実をしっかり見つめている。……学(がく)のある桜子には、はっきりとわかるようだ。
 しばらくして、立派な施設が見えてきた。
「こちらが、夕張石炭館になります。こちらで自然関係の体験をする事が出来ます」
「体験と言うと……」
 すぐさま答えが返って来た。
「夕張は、昔は炭鉱の町として栄えていました。今でも石炭が取れる事が出来ます。こちらで、石
炭の採掘体験と、それに合わせて博物館の説明をさせていただきます」
「採掘は面白そうだけど、説明は……」
 佳宏は相変わらず自分勝手だ。けど職員は表情を変えず、
「それなら、先に軽く炭鉱の歴史や石炭の紹介をしてから、採掘体験をする事にしましょう」
 一行は博物館に入り、担当の係員と一通りの施設を見て回った。実際の鉱山の跡などをそのま
ま見学コースにしている箇所もあり、愚痴をたらしていた佳宏も少しばかり活気が出てきた。
「勉強はこれまでで、早速採掘体験に行きましょう。ここから歩いて30分くらいの所にありますので
ハイキング感覚でどうぞ」の係員の話に、
「これからが楽しそうだな」
「ハイキングもできるなんて素敵だわ」
 極普通の林を歩く事30分 ― と言ってもメンバー同士のたわいのない話をしていればあっという間
だが、目の前に現れた景色は……。
「凄い、本当に黒い」
「こんなに広いとは……」
 8人はその迫力に圧倒するのも無理もない。そこは石炭層が地表に露出しているところなのだ。
「こちらにあるのが全て石炭です。ハンマーはこちらにありますので、お好きなだけどうぞ」
 こう言うものは男が好きそうなものであり、早速ハンマーを片手に石炭層の奥に降りていった。
「フフフ、まるで本当の鉱山師になったみたいだわね」
 沙奈も笑みがこぼれる。
「男達は無邪気に頑張っているけど、あたしたちは、この辺で採取してみようかしら」
 宝探しというほどではないが、掘って行くと石炭が以外と簡単に採取できる。
「これって、結構病みつきになるね」
 とほのか。
「そうさ、オレなんかもうこんなに採っちゃったもんね!」
 奥のほうから佳宏の声がする。
しばらくして、係員から、
「そろそろ昼になりますので、採取を終わりにしましょう。それでは、採った石炭を使って博物館で
バーベキューをしましょう」
「賛成!バーベキュー大好き!」
 食いしん坊の圭の元気な声。
「それでは、博物館まで持ち帰りましょう」
「…って、これ、結構、重い……」
「あんたが取った分だからね。…って安達君、そこまで考えてなかったでしょ?」
 佳宏の返事はなかった。もはやそれどころではないのかもしれない。
「まるで欲張り爺さんだね。あたしたちは少ししかないから楽だな〜」
 彩華の笑い声が林にこだまする。
 やっとの思いで博物館に戻り、お待ちかねの石炭燃焼体験。
係員から簡単な石炭ストーブの着火方法を教わり、早速試すメンバー。
 しばらくして石炭を使ってストーブに着火する事が出来た。さすがは採れたての石炭、ものすごい
火力で燃えている。
「火がつきましたね。それではストーブの上に鉄板を置きますので、各自食材を焼いてください」
「やっとメシだ。一生懸命持って帰ってきたからもうペコペコ」
 出てきたのは、野菜、肉、そして焼きそば。普通のバーベキューだが、自分で採って来た石炭で
焼いているのでおいしさはひとしお!
「ああ、満腹満腹」
 圭は、実に満足そうだ。その一方で、必死になって採掘していた幸親はというと、腹も空いている
だろうに、普通に一人前を食べただけ。
 彼曰く、
「夕張ならメロンでしょうに。多分この後はメロン農園に行って、体験とメロン試食があるんじゃない
かと思って」
「確かにこの後はメロン農場に行く予定だけど」
 しばらくして職員がやってきて、
「それでは、こちらの班もメロン農園に行きましょう」
 どうやら同じ日か昨日夕張のメロン農園での体験をした班があるらしい。北海道と言えば夕張メロ
ン。誰もが思い浮かぶのは確かだ。
「本場のメロンだ〜!」
 幸親の顔がほころんでいる。

 ワゴン車は夕張の農協に着いた。
 時期的にメロンの収穫時期だが、事情から摘み取り作業の見学及び体験は出来ず、変わりに選果
風景の見学だと言う。
選果場では、農協の人が、たくさんのメロンを一個ずつ手に取り、検査をしている。
「これでも十分見る価値がありますね」と桜子。
更に農協の奥では、箱詰めしている風景も。これも見学。その時、農協の人が話しかけてきた。
「あんたたちは東京から来た学生さんかね。ここに見学に来るのは結構珍しいな。……こんなもので
良ければお一ついかが?」
 と言われ、等級外ながら立派なメロンを一個頂く事が出来た。
「おお、早速食おう」
 の幸親の声に、8つに切ってくれた。
「さすがにおいしいね」
「幸せだ」
「農協のおじさん、ありがとう」
メロンを食べ終えると、笑顔で農協を後にした。入り口で待っていた職員から、
「メロンの摘み取りが出来なくて申し訳ありませんでした」
「いいのよ」
 の一言にほっとする職員。
「それでは、宿泊場所へ向います。なお、まだ時間がありますので、石炭博物館や、近くにある化
石博物館などを見学なさっても良いですし、映画のロケ地を散策しても良いでしょう」
「ありがとう」
 一行はホテルに到着。ここで市の職員と別れた。
「まだ時間があるけどどうする?あたしたちはさっきの博物館に言って見るけど?」と沙奈。
「なら、僕と伊勢君とで化石博物館ってのに行くけど」
「オレは疲れた……」
 午前中躍起になって石炭を掘りまくった佳宏と、掘りすぎた石炭を持ち帰った圭はダウン。ほどほ
どにしとけば良かったと今更後悔した二人だった。
【続く】

参考サイト:夕張市・観光のご案内 
        http://www.city.yubari.lg.jp/contents/sightseeing/facility/index.html
石炭博物館 http://www.yubari-resort.com/green/visit/museum.php
ゆうばり体験塾 http://www.yubari-resort.com/green/activity/coal-1.php


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