第7節 別れの発端

 三浦君の見舞いに行った翌日。
 悟は、グループの中で彼と接点があった彩華に、病状とリハビリの為に和歌山の病院に移る事を
伝えた。
 彩華が驚いたのも無理もない。
「ええーっ!三浦君が事故の影響で下半身不随に!!」
 さすがに一時期付き合っていただけ、その衝撃は大きい。暫しの沈黙の後、
「三浦君が回復する見込みがあるのなら、あたし、どんな事でも支えて行きたい。パパに相談して、
うちの病院でもリハビリが出来ないか聞いて見る!」
 昨日病院に見舞いに行っていた女子生徒と全く違い、事実を受け入れ、出来る限り支援がしたい
と話してくれた。
 それだけ重いが深いのは理由があり、なにしろ彼女の処女を捧げたのが三浦君だったからだ。
 もちろん彩華の口からは【秘め事】は決して言おうとはしない。けどそのことを一番よく知っている
人がそう語ったのだから。
 その人とは、佳宏だ。
 彩華と佳宏は中学生の時からの恋仲なのだが、彩華が三浦君と付き合うようになってから、一度
は別れた経歴がある。
 つまり、佳宏にとって三浦君は恋敵みたいなものである。悟は、彼に三浦君の症状を教えると、ま
るで鬼の首を取ったように喜ぶに違いない。と思った。
 放課後、佳宏に伝えると、正に予想通りで、
「え!あいつの見舞いに行ったって?で、様子はどうだった?」
「事故の影響で、下半身不随になり、来月リハビリの為和歌山の病院に移るそうだ」
「それは良かった!アヤちゃんを奪った報いだ!あいつがいなくなってせいせいする」
 案の定、佳宏は三浦君の病況を知って欣喜雀躍しはじめた。
「安達君…いくらなんでもこの言葉はひどいよ。たとえ友人の前でも、こういった発言をするもんじゃ
ないよ……」
「いや、悪い悪い……(小声で)今オレが言ったことは絶対に記事にするなよ!」
「わかった。昔のことは忘れて、冷静になりなよ……」
 悟は、購買から缶コーヒーと菓子パンを買い、佳宏に差し出した。
 2人は学校の校庭の隅に移動した。
「けど、何で安達君は三浦君を毛嫌いするんだ?」
「それは……オレが奪うはずのアヤちゃんのバージンを、あいつが横取りしたんだ!」
「それって……実際に現場を見たのか?」
「いや、そうではない。ただアヤちゃんとあいつが一発したのは目に見ているからだ」
 佳宏は、コーヒーを飲み終え、空き缶を足もとに置くと、
「2年になってすぐの事。クラスが別になって、アヤちゃんとは放課後の昇降口でしか会うことが出
来なくなった。今までは同じクラスだったので、授業中でも顔を合わせる事が出来た。それが出来
なくなったため、毎日授業中になってもアヤちゃんは教室に居ない。仕方なく放課後のデートの事
を思い浮かぶようになった。もちろん2人になるとキスはしたし、抱きあって愛し合うこともした。けど、
いざやるとしたら、アレが必要になってくるじゃない」
「アレって、もしかしてコンドーム?」
「当たり。ヤッパ避妊はしないといけないからアレは必要だ。だけどアレって高校生が堂々と店では
買えないものだし、ラブホテルも行けない。だからいつもいつも、挿れようとしても断られる」
「それで、どうして三浦君を?」
「アヤちゃんはあいつと同じクラスなんだぞ。美男美女がいればどうしたってすぐくっつくじゃない。
多分クラス替えをしてすぐ仲良くなったのか、それともあいつの魅力にとりつかれたのかしたんじ
ゃないの?」
「けど、なんで三浦君と彩華さんがセックスしたって判るの?」
「それはだ……ある日の事。放課後直前のホームルームが長引き、アヤちゃんとの約束の時間
に間に合わなくなったんだ。急いで教室を出て、昇降口に向って駆けた。ところが廊下がワックス
をかけたのか滑りやすくなって、待っていたアヤちゃんにぶつかりそうになった。その時アヤちゃん
が持っていたカバンに当たり、カバンの中身が飛び散った。ノートとか携帯とかと一緒に、封を切っ
たコンドームの箱がアヤちゃんの足元に落ちていたんだ!」
「なるほど。コンドームの封を切っていなかったのならともかく、封が開いていたのだから、三浦君と
セックスした可能性が高いとのことか……」
「そうだろ。いくら何でも、『これがコンドームだよ』と言いながら箱から取り出して風船みたいに膨ら
ますような遊びはするはずもない。箱から取り出して使った以外考えられない」
「そうなると彩華さんはバツが悪かったでしょ」
「もちろんさ。すぐオレはコンドームのことを追求した。当たり前だが、アヤちゃんは答えもせず俯い
ているばかり。やってないなら真っ先に否定するはず。それをしないのなら……。だからオレはヤキ
を起こした。『そんなにオレとやるのが嫌だったのか!オレよりもっとカワイイ子とやりたかったのか
よ!だったら毎日あいつとハメまくっていろ!この尻軽女め!』そう捨て台詞を残してオレは学校か
ら出ていった。そうしてオレはアヤちゃんを振ったのさ!」
「そうなんだ。けど安達君の気持ちもわからなくはないな。男って、女の子とは最初に恋人になりた
い!処女をもらいたい!って思うのが普通だからな。けど女の方は、最初の方に遊んでかき回した
としても最後に結婚する男を重視するものだからな」
「けど、あんたが転校して来たおかげで、アヤちゃんと再び接点が出来て、ヨリを戻せるようになっ
た。まあ誰も浮気はしたいんだし……」
「そうだよ。昔ンことは忘れた方がいいさ」
 2人の間にこんなことがあったんだ…悟は改めて、この高校の生徒が他と違って進んでいるな、と
痛感した。
そうなると、あの時たまたまコンドームの箱を持っていた為に、仲の良いカップルが破局するまでに
いってしまうのだから、お互いタイミングが悪い時はとことん堕ちてしまうものだな。と思った。
【続く】