第9節 クイズ大会・IN大阪

  放課後、目黒駅で2人は合流した。桜子はいつもながらの厚いレンズの眼鏡をかけている。
 名門のお嬢様学校に通っているのだから、もう少し男にもてるようにコンタクトレンズにすれば
いいのでは、と内心は思っている。けど眼鏡が彼女の一つのアクセントになっているのも間違い
ないし、他の男が彼女に関心を寄せていないのも事実だ。
 2人は電車に乗りこんだ。学校の外であっても、相変わらず桜子は真面目で、
「せっかくテレビに出られるのだから、テレビ業界の裏を偵察して、記事にしましょう。それと初め
て大阪に行くのだから、テレビやインターネットでは収集しにくい生の大阪経済と文化についても
取材できますね」
 と、いつも通り部長の振る舞い。まあ人の目もある事だから、悟もとりあえずは話題を合わせた。
 大阪到着が夜になるので、新幹線の車内で夕飯の駅弁を食べたり、大阪についてのパンフレ
ットを見たりして過ごした。
 新大阪駅に到着後、学校が用意してくれたホテルに向かった。大阪・キタの繁華街から少し東
に外れた商店街の一角に、そのホテルがあった。
 2人は無事ホテルに入った。しかし最後に予期せぬ事態が待ち構えていた。
 ホテル側の手違いで、ダブルベッドの部屋になってしまったのだ。別に寝られるのだから構わ
ないのだが、同じベッドで一夜を共にすると言うのは、嬉しいというのか……。
 2人は赤面し困惑したが、すでに予約で一杯であり、変更が出来ないとの事。
(これも神のお導きでしょう)と思い、既に色々な思いを抱き始めた。
 部屋に入り、初めての新幹線旅と言う事で、まずは汗を流しましょうという事になった。
 2人の間にはまだキスくらいしかないので、いきなり風呂に一緒に入るのはお互い抵抗がある
のは目に見えている。悟は、レディファーストとして、桜子に先に風呂に入れさせた。
 悟が風呂から出た時、桜子は既に浴衣に着替えていて、眼鏡は外してあった。
 その時初めて桜子の素顔を見た。
「金井さんって、眼鏡を取ると可愛い顔をしているんだな」
 と悟は褒めた。
「ありがとう。そう言ってくれるの岡村君だけです」
 そう言われると何となく照れてしまう。
「私は入学時から色々な生徒を見てきたけど、皆私の事を、罵ったり卑下したりしていました。確
かに皆さん私より数倍も綺麗な方やカッコいい人ですもの。負けて当然です。だから学校ではず
っと地味な優等生を演じていました。けど、岡村君が編入した時、今までの生徒とはタイプが違う
な、と思い、あなただけには素顔でいても卑下してくれないと確信していました。私の思った通り
で本当に嬉しいです」
 その言葉を鵜呑みにすると、(そうか、彼女は〔この時〕の為に素顔を秘密にしていたのか?!)と
悟は思った。
「明日はいよいよ収録ですね。早いけど寝ましょう」
 と桜子はつぶやいた。
 一人ベッドに座る悟、何だか、ここで何もしないと、時間が無駄に流れてしまうようでちょっとだ
け悔しく感じたので、自分も横になった。けどダブルベッドなので、自分の隣に女性が寝ている。
しかも同じグループの仲間、だけどまだ経験していない……。
 彼の脳裏では天使と悪魔が葛藤をしている。男ならばこういう場面では多かれ少なかれ理性
と欲望の板ばさみに苛まれる。だが、年頃と言う事で、(ちょっとだけなら……)と思うと脳裏にい
た天使は既に消滅していた。
(このチャンスを逃したら絶対に後悔する)との悪魔のささやきに応じ、今まで我慢していた手が
隣で寝ている桜子の身体を触った。しかし全く抵抗していない。
 それもそのはずで、桜子は悟が編入して以来ずっと好きだったのだ。彼女も大阪旅行と言うビ
ッグチャンスを決して無駄にしていなく、〔この時〕の準備を怠っていなかった。
「いいのよ。2人で夜を楽しみましょう」
 と、眼鏡を外している桜子は悟の手を招き入れた。
 浴衣を脱ぎ、悟は桜子の胸を触った。グラマーで巨乳の彩華には、大きさでは劣るが、それな
りに美しく整っている。
 その後2人の心は一気に燃え上がり、愛し合った。お互い初めて同士であるがしっかりとした体
験を済ませた。

 翌朝、2人は充実した思いで、目を覚ました。悟と桜子は、真に心と身体が一体となり、改めて
チームとしてのクイズ番組参加への闘志が高まった。
 そしてホテルで朝食を済ませ、何事もなかったかのようにテレビ局に向かった。

 テレビ局・朝日放送のスタジオ。
〔パネルクイズ高校生大会〕の会場に入り、簡単な説明を受けると番組収録が始まった。
「皆さんこんにちは。パネルクイズ司会の駒田潔です。今回は高校生大会と言う事で、全国各地
から有名校を集めました……」
 初老の男性司会者による出場高校紹介が始まった。良くみると、出場している高校は皆有名大
学の付属高校ばかりではないか!きっとテレビ局側は、番組を面白くする色物扱いとして麻布が丘
高校を出場させたのであろうかとも思った。しかしこう言う場面こそ腕の見せ所と思い、2人は覇
気を挙げた。
 他のチームとのレベルの違いに戸惑いながらも、悟の雑学知識と桜子の眼鏡効果?によって、
何とか2位に食い込む事が出来、一応麻布が丘高校の面子は保てた。
 番組収録後、番組スポンサーから奨学金5万円と副賞を受け取り、満面の笑顔でテレビ局を後
にした。時間はまだ午前中だ。
「東京には夕方までに帰ればいいのだから、時間まで大阪で遊んでいくか?」
「そうですね。せっかく学校から頂いた餞別金がありますから」
「大阪名物のたこ焼きでも食べながら、漫才でも観る、というのは?」
「大阪の食文化体験と上方演芸鑑賞会ですね」
「あ……学校ではないからもう少し軽い気持ちでいいんだから……」
「そうですね。岡村君の柔軟さはすこし勉強した方がいいですね」
「【夕べ】はココは固かったぞ」
「……そうでしたね。……って、昼間から、しかも街中でいきなりこんな話するなんて、岡村君った
ら……」
「ゴメン……気を取り直して早速たこ焼きを食べに行こう」
「そうしましょう。きっとたこ焼きもお好み焼きも東京のよりもさぞかしおいしいのでしょうね……」
 こうして2人はキタの繁華街へ向かった。

 東京へ戻り、翌日校長室に報告した。
 既に学校には連絡が行っていたのか、校長先生はすぐさま激励してくれた。しかし副賞としても
らったカーペットは校長に無理やり取られ、校長室の床敷きに使われてしまった。
 そして一週間後の日曜。
 悟と桜子が出場したクイズ番組のテレビ放送が行われた。しかし放送時間が昼間と言う中途半
端な時間帯なので、生徒はほとんど見てなく、結局学校内でもほとんど話題すら上がらなかった。
しかし先生や親は見てくれたので、高年齢者層の方々には人気を博したのはご愛嬌と言う事で。
 けど、それ以上にの大きな収穫として、悟と桜子との仲が【初体験】によって更に深まったのは
言うまでもない。
【続く】
取材協力:朝日放送