第8節 クイズ大会・予選会   〜 「眼鏡祭2」参加作品 (第8節&第9節) 〜

 2月のある日、2年生の女子生徒が、妊娠したのではないかという噂が広まった。
 近年、若者における性の早熟化が話題に挙がる。もしこの話が本当なら、この高校はかな
り進んでいる事になる。
 学食でもこの噂話はもちきりだ。
「僕がいた高校では、そんな事は全く無かったのだが……」
 悟はつぶやいた。
「仕方ない。うちの高校は都内の高校でも早熟な人が多いからな」
 と隣の席に座っていた幸親が答えた。
 悟達のグループの中でも、既に初体験を済ませている人が複数いる。
 その中の一人、綾華は、
「そーだよ、あたしもそうだけど、高校一年で初体験をした子が結構いるみたいだよ」
 と、さも自慢話をしているかのようだ。
 その「相手」であった生徒、佳宏が話に割り込んできた。
「ああ、あの時のアヤちゃんときたら、もうそれはそれは大胆で、それでいてオレに優しく愛して
くれた……」
 と、まるで火がついたように饒舌になって当時の様子を克明に説明する佳宏。
 その話を羨ましながら(いつか僕だって……)と思う悟だった。

 そんな噂が消えかかった2月中旬、学校の掲示板に大きなポスターが張り出された。
〔朝日放送・パネルクイズ高校生大会 予選会開催決定 只今出場者募集〕
 クイズ番組の予選会が来週体育館で行い、優勝チームはテレビ番組に、学校を代表して出場
できると言う。
 テレビに出られるという事で、生徒の関心が一気に集まった。
 放課後になると張り紙の前に、早速人だかりが出来ている。生徒が口々に、
「面白そうじゃないか、参加してみるか」
「悪い事以外でテレビに出られるのはめったにないからな」
「あたしはバカだから参加してもダメかな」
 早々と参加した際の憶測と、ささやかな夢が飛びかっている。
 この張り紙を見て、悟は、
(クイズ番組か……彼女を誘ってみるか)
 と思い、部室へと足を運んだ。
 悟を入れてたった2人だけの部員の新聞部。新聞部部長であり、悟のグループのメンバーの一
人である桜子に、クイズ大会の話を持ちかけた。
 桜子は、眼鏡のフレームを手にしながら、
「この学校も味のある企画をする様になったのですね。優勝チームはテレビ番組出場と言う事も
なかなか興味深いですね」
 そう言いながら2人で予選会に参加する事を了承した。
 桜子は悟の両肩に手を乗せると、
「一緒に優勝目指そうね」
「そうだね」
 と言葉を交わした。

 翌週、体育館には50人くらいの生徒が集まった。
 学校と言う性質上、こういう楽しいイベントでも校長のコメントが恒例になっていて、
「大阪のテレビ局・朝日放送が製作する、現在唯一の視聴者参加型クイズ番組〔パネルクイズ〕
の名物大会の一つである高校生大会の収録が行われ、それに合わせての予選会です。現在
3校の出場が決まり、残る一校が本校であります……」
 相変わらず校長の話は長い。長話の末、予選会が始まった。
 2人グループで25組が一斉に問いに答える早押し問題が20問出題され、上位4チームが決
勝に参加できるとの事。
 肝心の問題だが、実際のクイズ番組で採用された物とオリジナルを混ぜたもので、さすがにレ
ベルが高い。
「第1問 日本初の女医である荻野吟子(おぎのぎんこ)氏は、現在の何県何市出身か?」
 参加者が皆問題に苦しんでいる中、桜子の眼鏡が光る。
「埼玉県熊谷市です」
「お見事、正解です!」
 やはり秀才だけあって、多岐にわたるジャンルに博識がある。
 しかし彼女にも苦手分野があり、
「第17問 大リーグ・マリナーズのイチロー選手の出身校は?」
 芸能やスポーツ問題に関しては、桜子の眼鏡は光らず、予選に参加していた佳宏が、
「愛工大名電高校!」
 といともたやすく回答した。
 しかし佳宏チームの反撃も及ばず、ぶっちぎりの成績で悟&桜子チームがトップで決勝進出
した。
 4チーム残った決勝では、番組と同じような形式で行った。悟の脳裏には久しぶりに【楽勝丸】
が漂い、ここでも2人の息はぴったり合い、難なく優勝した。
 勉学をあまり励んでいない参加者の中での予選会だったのでこの結果は多くの人が予想し
ていた。しかしこればかりは太刀打ち出来ないのが分かっているので、皆拍手で祝福したので
あった。
 校長は2人に【優勝】と書かれた目録を渡した。
 2人は喜びの余り参加者の前で思わず抱きついた。誰かの指笛が聞こえ、それにあわせて拍
手が体育館内に広がった。
 閉会後、二人は応接室に招かれた。
 校長から、
「本校の日程の都合で、予選会開催が大幅に遅れてしまい、本当に済まない。テレビ収録があさ
ってに迫っている。明日の放課後、新幹線で大阪に向かって欲しい。往復の切符はテレビ局から
支給されているので渡しておく。そしてこれが学校からの餞別だ」
 悟が校長から受け取った封筒を開けると、ホテルの宿泊券と旅費と地図が入っていた。
 最後に校長が、
「これは遊びではなく、課外授業と言う事を肝に銘じて、気を付けて行くように」
 と話すと2人は礼をして、応接室を後にした。
「明日の放課後、夕方5時に、目黒駅でね」
 2人はこう約束して家路に向かった。
 夕飯時に、家族の前で悟は、
「新聞部の取材で、明日から2.3日大阪に出かけるから」と伝えた。
 両親は、学校の事なら仕方ない、といった表情であったが納得したみたいだ。
 尤もこれにはきちんと考えがある。
 正直に〔クイズ番組の予選で優勝し、収録の為大阪に出かける〕と言っても良かった。しかしこ
れでは芸がないので、母親が毎週見ている番組に、突然自分の息子が出場していたら、さぞか
し驚くだろう、と言う計画だ。

【続く】