第7節 父へのプレゼント

 木曜日の夜。岡村家の2階で、兄妹が明日の事について話し合った。
「いよいよ明日だね」
 悟は既にわくわくしている。
「そんなお兄ちゃんの楽しい気持ちをぶち壊すようで悪いんだけど……」
 沙奈は、今日学校で彩華とほのかとで話し合った内容を伝えた。
「実は、今回のお別れ会について、3人でもう一度考えてみたの」
「それで、どうなったの?」
「今回の主役はあくまでもお父さんじゃない。だからお父さんがいい心地になればそれでいいんじゃ
ないのかな、って」
「すると僕たちが飲み食いして楽しむのは、今回の目的に反すると?」
「ま、端的にいうとそうじゃないの。きっとお父さんは、会社の同僚や友人と一緒に飲んだほうが楽し
いと思っているよ」
「確かに、一理あるな」
 悟は渋々ながらも了解し、沙奈と話し合った事を佳宏たちにもメールで伝えた。
 案の定、返信メールが間髪を入れず来た。
【せっかく赤坂の料亭で刺身盛り合わせを注文したのに……】愚痴とも取れる内容だ。
 すると沙奈は、
「うちでお父さんにプレゼントを渡してから、パープルとかカラオケボックスとかで二次会をすればいい
んじゃないの?」
 所詮男は、理由が何であれグループで飲み食いして騒げばそれでいいものだ。沙奈も少しずつ分
ってきたみたいだ。
【その刺身はパープルに届ければいいじゃない。プレゼントをあげたら、その足でパープルに行って
パーティーをすれば良い】と打って返信した。

 金曜日の夕方。岡村家にメンバー7人と母親が父の帰りを待っていた。
 午後6時、背広姿の父が帰宅して来た。ドアを開けるなり、
「お父さん、北海道に行ってもお仕事頑張って!」
 との家族3人の声援と共に、メンバーの6人が一斉にクラッカーを鳴らした。日本ではあまりないサ
プライズパーティー式のスタイルに、父は戸惑った。
「おやおや、転勤にはまだまだ早いけど……」
 との言葉に一瞬場がしらけそうになったが、
「岡村君の親父さんが一時転勤すると言う話を聞いて、俺たちも色々とお世話になったので、今回
は逆に礼がしたくなった。それで皆で金を出しあって、プレゼントを買ってきたのです」
「いやいや、礼だなんて水臭い……」
 と突然の出来事に父は照れている。
 リビングで佳宏は、大きな紙袋を父親に手渡した。
「男達で浅草に行って東京名物を買って来ました。北海道の人にも分けてください!」
 父は紙袋の中身を開けた。
 何と【東京】と中央に大きくプリントされたトレーナーと、東京タワー・雷門・国会議事堂のミニチュア
に温度計が付いた置物だった。この【東京置物】は10箱も入っている。
 そばにいた彩華は、佳宏たちが買って来た、超ダサダサの東京土産を見て、笑いながら、
「本ッ当にオトコっていつまで経っても子供だね!」
「それはそれでいいではないか。何しろ北海道にはない物なのだからな」
 父は意外と寛容だ。やはり父もオトコだからか?
「今度は私達からの贈り物……」
 ほのかは父に綺麗に包装された小箱を渡した。早速中を開けた。
「おお、これは有名ブランドの腕時計ではないか!こんなに素晴らしい物を本当にもらっていいの
か?」
 父は動揺し始めている。まさか腕時計のような立派なものを高校生から頂いたのだから。
「ええ。喜んで受け取ってください」彩華の言葉はいつもよりも落ち着いている。
 そうなると男性陣は居心地が悪くなってきた。笑いを誘った奇襲作戦に、女性陣の正攻法には太
刀打ちできないからだ。
 圭がそそくさながら、
「じゃあ、僕達はこれで……」と言いかけると、
「今日はこんなに素晴らしい物を頂いて本当にありがとう。……悟と沙奈、二人はとても良い友人に
めぐり合えたようだな。これからもずっと良い仲であって欲しい」
 父の感謝の言葉を聞いて、佳宏たちは思わず頬がほころんだ。そしてもっと嬉しいのは岡村兄妹
だった。素晴らしい友人に出会えた事を親が喜んでくれたのだから。

 父が言い終わると、【お別れパーティ】はお開きになった。
 玄関先で佳宏が、
「そんじゃ、ま、オレ達はパープルにいくとするか」
「パープルで何するの?」とほのか。
「岡村君の親父さんの転勤パーティーの二次会だ。料亭から刺身盛り合わせが届いているんで、飲
んで食べて歌って笑って……」
「安達君ったら、相変わらずだね」
 彩華は冷ややかな眼で見ている。
「さあ野郎ども、パープルへいざ出陣!」
 と言いながら4人は六本木へと向かった。
「さっきの東京土産もそうだし、本当にオトコって幼稚だね!」ほのかも苦笑している。
「けど、堂々と【子供】が演じられる安達君って、何だか魅力的だな……」沙奈はつぶやいた。
「でしょー!」彩華も思わず頷いた。

「それにしても電車が中々こないなー……ハーックショーン!」
 地下鉄の駅で突然佳宏が大きなくしゃみをした。
「寒くない?」
 悟の問いかけに佳宏は、
「誰かがオレのこと噂してるかも?」
「ハハハ、まーさか。それより早くパープルに行こうぜ。刺身がオレたちを待っているんだからな!」
 相変わらずオトコって……

【続く】