第2節 スキー場にて

 幸親の知り合いが経営している新潟・石打のスキー場。グループ一行はひと滑りをする前に、
ホテルのレストランで昼食を取る事にした。
 ホテルのワンフロアを丸ごとレストランにしているため、とても開放的に感じる。ホテル側の運
営方針なのか、まるで結婚式の披露宴会場よろしく、グループ用に丸テーブルが2つ用意され
ている。そしてご丁寧にも席札まで振り仮名つきでかかれている。
(そこまでやらなくてもいいのに)
沙奈は過剰なサービスにやや閉口し始めている。
 悟は自分の席札を見るなり、
「僕の名前間違っているよ。サトルではなく、サトシです!」
 すぐさま係員がやって来て、
「楽しい気分を害されてしまい、相すみません」
 と詫びると、お詫びとしてショートケーキまで持ってくる徹底振りだ。
「まあ、しょっちゅう間違われるから、もう慣れっこになってしまったけどね」
 そう言って、メンバーの気持ちを和ませた。
 豪華ホテルと言う事で、出てきたランチもそれ相応の充実した内容だ。フルコースまでは行かな
いものの、メインの肉料理も素材も調理も吟味されていて、食通の圭でさえ及第点を挙げられる出
来であった。ただ、時期が時期だけに、出てきたサラダがやや新鮮さに欠けていたのは仕方ない
ものがあったが。

 食事が終わると、いよいよスキータイムだ。
 ホテルの専用通路を通ると、そこがスキー場につながっている。
 長い階段を上ると、一面の銀世界が広がっている。いわゆるホテルのプライベートゲレンデで、
小さいリフトが1基あるだけのこじんまりとしたものだ。
 よってコースも初心者向けと中級向けが1つづつあるだけだ。
 国内にあるスキー場全体と比べれば、さすがに規模は小さいが、スキーに必要な物は揃って
いるし、何しろホテル専用のプライベートゲレンデなので、人目も気にせず混雑もなく悠々滑る事
が出来るのは何よりの強みだ。
「本当に誰もいないね!」
「そりゃそうさ。なんてったって、今日このホテルに宿泊しているのは、俺たち以外は、スキーをしな
い敬老会のオジーサンオバーサンばっかだから。このスキー場は正にうちらの貸切だ!」
「さすがは伊勢君ね!ちゃんと予約状況を確認したんだね!」
 沙奈は幸親の行動力に惹かれはじめている。
 各人がリフトに向かっているその中で、ただ一人ゲレンデに顔を出していない人がいる。
 佳宏だ。意外にもスキーが苦手なようだ。履き慣れていないスキー靴で、さも面倒くさそうに歩い
ている姿が妙に笑いを誘っている。
「この姿、動画に撮って学校中にバラまこーか!」
 ほのかが意地悪そうに笑いながら携帯を取り出す。
「それだけは勘弁を……、裸撮られるほうがずーっとマシだ!」
 思わず彼の口から真意がこぼれてしまった。
 すかさず他の6名から「脱げ!」コールが轟いた。
 佳宏はコールの雨を無視して、おぼつかない足取りでリフトに向かった。
 リフトを降りると、後は滑るだけだ。スキーが得意な人は既にうきうきしているが、そうでない佳宏
の顔は浮かない。
 初心者向けの緩いコースを岡村兄妹はさっそうと滑る。さすがに北国生まれだけあり、技術は相
当なものだ。他の皆もそれなりに滑り、スキーを楽しんでいる。注目の佳宏も、慣れないボーゲンで
恐る恐るながら、形だけはシュプールを描いている。けど速度は遅く、
「速く来てよー!置いていっちゃうよ!」
 と彩華は笑いながら叫んだ。
「待ってくれよ!オレ、スキーは苦手なんだ……」
 情けない言葉を無視して、スイスイとリフトに乗る彩華たち。
 それでも上手に滑る仲間を憾めそうに見ながらも、何回かは初心者コースを黙々と滑り続ける佳
宏であった。
 けど、誰もいないスキー場で気がねなく滑れるだけあって、皆ゆったりと滑って楽しんでいた。
 去年まで北海道で、混雑しているスキー場ばかり行っていた悟も沙奈も、貸切スキー場で思い
っきり滑れて満足したのは言うまでもない。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎ去り、スキー場のある石打にも日が暮れる時間がやってき
た。小さいスキー場なのでナイター設備はなく、日暮れの時点で終わりとなる。
「いやー滑った滑った!一年分滑ったかも?」
 ほのかは満足した顔つきでいる。さすがに疲れたのか、笑みこそは浮かんでいないが。
「ホントねー!ここに住んで毎日滑りたいくらいだ!……金と休みがあれば……」
 彩華の言葉に皆口々同意の声が挙がる。佳宏も下手なボーゲンながらも、スキーを楽しんだみ
たいだ。
「今年は一回も転ばなかったから、オレとしては上達したんだぞ」
 佳宏の自慢話にも、
「中級コースでも、まあまあのシュプールが描けたぜ」
「本当に岡村君の滑りは上手だったね」
 なとど、佳宏にとってはハイレベルなスキー話の方で盛り上がっていて、独り言に耳を貸す人は
一人もいなかった。
 もう既にレストランでは夕飯が出来上がっているとの事。
 更衣室で普段着に着替えると、全員レストランに向かった。
【続く】