第3章 それぞれの初体験

第1節 スキー旅行IN石打

 冬休みが始まった。
 岡村兄妹が入っているグループは、メンバーが金持ちが多いので、休みの時期となると、必然的に旅行やバカンスに出かけるのだ。しかもこのグループは、親同士のつながりも強いので、それらの旅行なども数家族単位で出かける事もあると言う。
 夏は海、冬はスキー、春秋は国内外旅行と、まさにアウトドア天国と言っても過言ではない。
 今は冬と言う事で、メンバーの毎年恒例行事の一つとして、スキー旅行があると言う。もちろん悟と沙奈も、メンバーの一員と言う事で無料で招待されると言う。
 スキーとなると、今まで住んでいた北海道は、冬となると降雪のため、スキーやスケートくらいしかウインタースポーツが出来ない地域だ。だからスキーは一般的な冬のスポーツであり、手軽な遊びでもある。
 学校でも冬季の体育授業はスキーを取り入れるので、二人ともスキーの腕は大した物である。しかもそのスキー旅行が無料で行けるとなると、2人は心がうきうきするのは当然である。
 けど未成年である以上、親同伴でない旅行は親の承諾がいる事は目に見えている。けどこの難関をクリアしないとスキーに行けないと言うので、正直に両親にこう話した。
「あのー……来週、友人の伊勢君からスキー旅行に行かない、と誘いを受けたんだけど……僕たち2人で行って来ていいかな……」
 すると両親は、
「伊勢って、例の国会議員の子か……。まあ見た感じ余り悪い風には見えないし、親が事件に関わったとは言え、国会議員さんなのは事実なのだし立派な人だから、特に問題はないでしょう」
 意外とあっさりと旅行を許してくれた。
 沙奈の考えでは、きっとこの前の告別式の時に北海道に連れて行かず留守番してくれたから、そのお礼と考えているのであろうか?と思ってみたりした。

 翌日、学食で2人ともスキー旅行に行く事を親が了承してくれた旨を伝えると、
「よかったジャンか〜!」
「皆で一緒に滑りましょ!」
 と歓迎された。初参加と言う事の期待半分と、岡村兄妹の親が旅行を許されなかったらどうしようか、という心配半分が皆の心に入り混じっていたからだ。
 2人が北海道にいた時分、スキーの技術を鍛えていた事を知ると、
「今回は〔スキーの達人〕が参加となるか……久々に僕の腕前を見せる時が来たな!」
 圭が早々と意気込んでいる。生まれが長野県と言う事で、ウインタースポーツに関してはそれなりに自信がある。
「この腕前を持ってサナちゃんにアタックする気か?……悪いがお前の技術じゃ、逆に笑われるのが落ちだぞ!」
 隣で佳宏が意味深な笑みをこぼしながら忠告している。何度もスキーに行っているからこそ言える確信のある台詞なのか。それとも単なる脅しに過ぎないのか……。

 12月26日、スキー旅行の当日の朝。岡村兄妹は山手線に乗り、東京駅に向かった。
 悟は、生まれて初めて降りる東京駅の広さに圧倒した。やはり日本を代表する駅なので、規模も利用客も路線も、北海道の駅とは桁外れに違う。駅案内図を見たり、人に聞いたりしてやっとの事で新幹線改札口にたどり着いた。もう既に参加者全員集まっていた。
「遅れてゴメン、東京駅が広すぎて広すぎて……」
「そーかなー?あたしにとって見ればこのくらい何とも無いけど……」
 ほのかがにこにこしながら答える。
(さすがに鉄道の路線に関しては、詳しくなってるね)
 川越での出来事を知っている沙奈は、この一言に納得した。
「これで全員揃ったな。新潟行きの新幹線がホームで待ってるぜ!」
 スキー旅行の主催者である幸親が、早速全員指揮し始めている。
 9人グループのうち、桜子は新聞配達があるため不参加、博樹も家が居酒屋と言う関係から、年末がかき入れ時と言う事で、店の手伝いを余儀なくされて不参加。
 よって参加者7名は新幹線のグリーン車に乗り込んだ。さすがにグリーン車だけあって座席も車内サービスも満足に値するものだ。幸親たちレベルの金持ちならごく普通に乗っているのかと思うと、悟と沙奈は少し羨ましく思った。
「今更だけど、どこのスキー場に行くのかい?」
 悟の問いにも幸親は親切に答える。やはり久々のスキー旅行と言う事で機嫌がいいのだろうか?
「どこに行くかって?いつも俺が口が酸っぱくなるまで言っていたけど……まあいいか。俺の親父の知り合いが経営している石打のスキー場だ。新幹線の駅からは少し離れているけど、静かでのんびりしていて、とてもいいところだ」
「のんびりとは出来ないんじゃないのか?」
 すかざす圭が脇から入ってくる。スキーとなると目の色が変わるのが良く分かる。やはりスキーウェアに着替えたら、きっと性格すらも変わってしまうのだろうか?
 約一時間後、7人が乗った新幹線は、新潟に入って最初の駅・越後湯沢に着いた。
 幸親の知り合いの事だから、きっと駅から送迎バスが来るのかなと思ったら、そう言う事はしていないみたいだ。仕方なく、駅で大型タクシーを呼び、そのスキー場に向かう事になった。
 タクシーに揺れる事20分。石打の少し外れにあるこじんまりとしたスキー場だ。規模が小さいながらもリフトがあり、ホテルも整備されている。雰囲気的に、やはりお金持ちの家族が、お忍びでスキーを楽しむにはちょうどいいのかもしれない、と思った。
「スキー場に着いた事だし、早速ひと滑りでもしますか!」
 もう圭の眼が輝き初めている。
「まずはゆっくり部屋で休もーよ!まだ明るいんだし、昼ご飯食べてからでもいーんじゃない?」
 電車の旅に慣れていないのか、彩華が、さも疲れたような顔つきで訴えている。
 すると意味深な笑みを浮かばせながら、
「アヤちゃんがそう言うのなら……」
 との一言。圭にしては珍しく素直だ。
 一行はホテル内に入った。広くはないものの内装は豪華だ。
 幸親がチェックインを済ますと、
「2階にあるレストランで食事の用意ができているんで、少し早いけど昼飯にしよう!」
と皆に伝えた。
【続く】