第12節 秘密のパーティー

 夕方。岡村兄妹が1階の居間を片付け終わると、玄関のベルが鳴った。
「こんばんは〜!」
 メンバー全員が、まるで前もって発声練習でもしたかのように、声をそろえて叫んだ。
「いらっしゃい!」
 悟と沙奈も一番の笑顔で出迎えた。
 岡村家に初めて訪れた桜子は、手土産を持ってきてくれた。
「新聞屋の店長さんの実家から戴いたものなのですが……」
 袋の中にはリンゴが数個入っている。
「仲間なんだから、わざわざ持ってこなくても良かったのに……」
と誰かがほざいていたが、沙奈は、
「ありがとう。早速皆で食べましょう」と答えた。
「部屋を片付けたばかりで、ばたばたしていますが……」
と言いながらメンバーを家の中に招いた。
 家に入る時、圭が、
「今回のお誘いに対し、感謝の気持ちとして男性陣から……いいモノ手に入ったので」
と、悟に向かって小声で話した。
袋を開けると一枚のDVD。パッケージがないシンプルなものだ。直接印刷されている作品のタ
イトルを見ると……
【素人シリーズ 22 マキ】とだけ書かれている。
 風体からして、このDVDは、いわゆる〔無修正・裏モノ〕と言うものらしい。
「兄に頼んで、新宿歌舞伎町のビデオ店で買ってもらったんだ」と自慢げに語った。
 インターネット全盛の世の中、この手の画像や映像は海外サイトをネットサーフィンすれば簡
単に手に入るのだが、こうして商品として買ってみるというのも、また違った趣がある。
「いい物手に入ったな」
 幸親は早々と目を光らせている。
「いつか男たちで見ようや!」と男性陣に向かって小声で伝えた。
 この一部始終を見ていたほのかは、
「まったく、男って……」とあきれた顔でつぶやいた。
「いーじゃないの。このくらいが健全な男の姿だって」沙奈と彩華は口々に答えた。
 沙奈は、桜子から戴いたリンゴを剥き、既に置いてある菓子と飲物のテーブルの脇に置いた。
 それらを食べながら皆でいつものたわいのない話をした。幸親もすっかり元気を取り戻したみ
たいで会話の輪に溶け込んでいる。
 ふと気がつくと午後7時を回っていた。突然玄関からチャイムがした。何とこのパーティー開催に
あたり、参加者全員が金を持ち寄り、感謝の気持ちとして、赤坂の料亭で特別に誂えたセットコー
スを、板長に無理を言ってここに配達してくれたのだ。簡易なプラスチック重に入っているものの、
中身は本格的会席料理だ。どうみても一人前1万円はするであろう。やはりと言うか、金持ち子息
の集まりでしか出来ない事だな、とつくづく思った。
「これで酒でもあればなー!」
 佳宏がいきなり叫んだ。しかし、酒に溺れたばかりの幸親がいる中、彼を気遣ってか誰しもこの
話に乗る人はいない。
 空気を読めない男のほざく事だ、と無視し、皆黙々と料理に舌鼓を打っている。
(外したかな?)と思わず俯いた佳宏。
 こう言う場合は話題を変えるのが一番、と思い、
「これが料亭の味か!やはりおいしいね」
 沙奈は素直な気持ちで料亭の味の感想を述べた。
「そりゃそうさ、なんたってオレのお勧めの店だから」
 食通ぶっている圭が答えると、
「こんなに豪華な料理、生まれて初めて戴きましたわ」
 桜子も超高級料理を堪能していた。
 食事が終わると、後は再び〔お楽しみタイム〕である。何と彩華が携帯用カラオケセットをこのパ
ティの為に用意して来たのだ。接続コードをテレビにつなげると、雰囲気と気分は何となくカラオケ
ボックスになった。
 さすがは金持ちの子。安物の携帯カラオケではなく、歌いたい曲をパソコンからダウンロードし
て本体に取り込む最新式の機種なので、選曲もすべて最新ポップスやアニソンばかりだ。
「俺にもやらせろ」
「あたしが先よ」
 案の定歌う順番で引っ張りだこになり、結局歌える曲は皆で歌っていい事になった。こうなるとカ
ラオケではなく、合唱になってしまう。まあそれだけ仲間と楽しみを共有できるのはいい事だが。
 カラオケ大会も佳境に入ると、各人が持ち歌を披露するようになり、中には誰も知らない演歌や、
受け狙いのコミックソングまで飛び出す始末。
 佳宏たちに至っては、下ネタ満載歌詞の歌を歌いながら、3人が一斉にズボンとパンツを脱いだ
のだ。彼にとっては最大の余興であり、気分が高揚するとついついやってしまうらしい。
 こういった【珍事】は日常茶飯事なのか、以前から知り合いである彩華やほのか、そしてクールな
幸親は特に動揺もせずはしゃいでいた。
 こういった宴会に無縁だった他の3人は突然の出来事に驚いた。
 悟はふと考えた。こういった事は、3人が幼なじみだから、一緒に風呂に入った事もあるだろう、
しかも佳宏の子分である圭や博樹なら、多分どんな命令も従うであろう。そう考えるとごく自然な事
であり、変な事ではないのであろう。
 もちろん〔こっち〕の趣味はないのだが、同じモノをもつ男性にとって、他人のは多少なりとも気
になるもので、特に友人となるとなおさらだ。そうなると口には出さないものの、一喜一憂してニ
ンマリするのが一番であろう。
 意外と冷静になっていないのは沙奈と桜子だ。
 3人が、歌いながら下半身丸出しになった途端、
「キャーーーー!!!」と悲鳴をあげ、顔を手で隠した。
もちろんその脇にいた彩華は、相変わらず、
「ハハハ、一丁前にブラブラさせてやんの!」と笑っている。そのアンバランスさがかえって異様な
笑いを誘っている。
 しかし、良くみると2人とも目はちゃんと大きく開いて、指と指の間から3人の下半身をまじまじと
見ているのではないか!
 やはり普段見られないものが〔開帳〕出来たのか、しっかりと拝んでいるのだった。無論曲中の
余興なので、歌い終わると3人はそそくさに仕舞い、何食わない顔でテーブルに戻った。
 悪乗りに火がついたのか、彩華が、
「続けて第二弾!アヤカのミッドナイトスペシャル!」
 と言い出すと、男性陣は黄色い歓声をあげた。もちろん再び〔ご開帳〕されるのを期待しているの
は言うまでもない。
 しかし、時のいたずらか、良心が働いたのか、彩華は突然黄色い声を上げ、
「と思ったが時間は午後10時。これにてカラオケは終了〜!」
 スケベ心一杯の殿方は、意外な発言に皆こけたのはお約束!
 彩華はカラオケセットを片付け、沙奈もテーブルに散らかっている菓子袋を全てゴミ箱に捨てた。
 案外空気を読んでいる圭が、
「今日はこれでお開き、と言う事で今日はどうもありがとう!」
と言い出すと、最後の「ありがとう」の部分は7人一斉にハモった。
「こっちこそ楽しかった。また明日。車に気を付けて」と岡村兄妹は礼を言った。
 程なくして自宅前にタクシーが止まり、全員乗せて出発した……。
 久しぶりに楽しいひと時を過ごした。幸親も【人間】を取り戻したみたいだし。
 最後の方は勢いに乗って暴走した感じだが、それはそれで楽しい珍事だった。勿論この事は両
親には言えないが。
 2学期ももうすぐ終わり、9人が見事に一つのパーティーとして確立した記念すべき一日であった。
【第2章 完】