第11節 親の居ぬ間の……

 もうすぐ2学期も終わろうとする12月のある日の夜、岡村家に電話がかかってきた。
 一家揃っての夕飯時なので父が受話器を取ると、電話の相手は北海道の親戚からだ。
「えっ!叔父が首吊り自殺!?本当ですか?」
 北海道に親戚が多いので、【叔父】だけでは家族には誰だかわからない。
「それで告別式が明日……分りました」
 そう言い終わると電話は一方的に切られたらしい。おそらく相手先も自体が事態だけに、事実と必
要な連絡事項を伝えるだけで一杯なのだろう。
 父は、受話器を置くと、少し間を置いた後、家族に伝えた。
「洞爺湖の早瀬さんが自殺した。自殺の理由は言わなったけど、おそらく不景気による旅館の廃業
が大きかったらしい」
 一家は、突然の訃報に暫し唖然とした。
 早瀬さん一家は、洞爺湖で旅館〔とうや瑚苑〕を経営していた。50年以上続く老舗旅館だったが、
有珠山(うすざん)噴火の影響で宿泊客が減少し、その後一時客足は戻ったが、最近の世界規模
の金融危機による不景気の影響をモロに受け、宿泊客のキャンセルが相次いだ事と、旅館の取引
先銀行も破綻し、被害連鎖によって旅館も廃業。仕事と金を失いその末による自殺……。不景気
の波をまともに受けた被害者が、まさか親戚にまで及ぶとは……。
 岡村家は、北海道にいた時、家族旅行となると必ず早瀬さんの旅館に泊まっていたので、旅館廃
業の時も大きなショックを受けていたが、まさか経営者まで自殺するとは夢にも思っていなかったの
で、かなりショックは大きかった。
 自殺では保険が降りず、土地と建物を売った金は全て負債返済に充てられるとなると、残された
家族の事が心配になってきた。世界規模である大不況の被害者と言えばそれまでだが、余りにも
可哀想過ぎる。
 確か早瀬家には大学生か高校生の子供がいるはず……多感な年頃に親が自殺となると、メンタ
ルな点でも心配になる。
 悲しいけど、これが事実だ。
「とりあえず、明日行われる告別式には参加しないと……」
 両親は言った。悟と沙奈は学校があると言う事なので、学校を休んでまで出席させるわけには行
かず、結局両親だけで告別式に出席する事になった。
 父は自分の会社である航空会社に電話して、葬儀のため有給を取る事と、飛行機の空席を照会
してもらった。始発便が空席があるとの連絡を受け、早速予約をした。
 両親は急な葬儀と言う事で、明日の準備をしなければならなくなり、夕食を食べ終わった時点でめ
いめい片付けることになった。留守番をする兄妹は、そそくさと二階に上がった。

 両親と早瀬さんには悪いが、この事は二人にとって福音をもたらした。
 不謹慎とは分っていても、そこは元気一杯の高校生。友人をおおっぴらに誘えて、家でどんちゃん
騒ぎが出来る絶好のチャンスだ!と悟は考えた。
 部屋でその事を沙奈に話すと、やはり乗り気になっている。
「いくら親戚の人が亡くなっても、私たちには特に関係ないし、何しろ久しぶり北海道に行けるかと
期待していたのに、それが急にチャラになってしまうし……」
 悟とは違った不満もあるにはある。おそらく彼女は北海道に行くと言うからには、ドサクサで友人
と逢えると言う希望もあったに違いない。
「それなら、メンバーをうちに誘って楽しく過ごしましょ!」
 沙奈は悟に向かってウインクすると、早速携帯電話のボタンを押した。
「明日、うちでパーティーを開かない?両親は親戚の葬式で北海道に行っちゃうんで大丈夫よ!」
 同じように悟も友人に同じような旨の電話をかけた。こういうイベントは久しぶりに行っていなかっ
たのか、みんな快諾してくれた。

 翌日。悟は電話がつながらなかったメンバーにも岡村家でのパーティーの話をして、誘ってみるこ
とにした。
 幸親には、朝教室に入るなり伝えると、
「ほう、なかなか楽しそうじゃないか。あれ以来、ずっと俺の家ではお手伝いのおばさんと2人の食事
ばかりだから単調で単調で……。俺の快気祝を兼ねてパーっとやろうではないか!」
 続けて、桜子にも話して見た。こういった話をするにはつながりが強い悟が話をする方が、沙奈よ
りも効き目があると思い、休み時間に伝えた。
「あなたの家でパーティーを、ですか。……私も参加したいです。新聞店には帰りが遅くなる事は、
後で連絡しておきます」
 桜子は他人様の家に遊びに行くこと自体余り慣れていないのか、やや緊張気味であった。けど出
逢った時と比べればかなり変わってきた。
 すかさず沙奈にメールで報告する悟。
〔OK!皆集まってくれて嬉しい〕数分後メールが返信された。
 高校生にとって、家での家族非公認のパーティーほど楽しい物はない。親に気兼ねせず皆で騒げ
るのは魅力的だ。沙奈も北海道に行けなくなったという寂しい気持ちもあっという間にどこかに吹っ
飛んだみたいだ。
 そう言う事で、パーティーに招かれたメンバーも【楽しい夜】をどのように過ごそうかあれこれ考え
ているのか、昼休みも学食で、岡村兄妹はメンバーの話し合いから外された。
 この事は2人も承知で、
「きっと何か凄い事でも考えているのかな!」
と談笑する2人であった。

【続く】