第7節 ほのかの秘密

 テストが終わり、メンバーが久しぶりに学食に集まった。
 9人は佳宏がおごってくれたミソバターコーンラーメンをおいしそうに食べている。
「ミソラーメンと言えば北海道だな〜」
 佳宏の発言としては珍しく、話の焦点がぶれていない。
「北海道と言えば岡村君たちが少し前に住んでたところじゃない!」
そう言いながら彩華が身を乗りだす。
 熱いラーメンを食べていたからか、学食の空調が止まっていたのか、彩華はブラウスのボタン
を一個外していた。かなりのナイスボディなのでブラウスの間から胸の谷間が見える。
 乗り出した先には悟がいた。ふと目をやると彩華の胸が見える。
(彼女は誘惑をしていない。いたって普通の事だ)
 悟は表面上は冷静を保ちつつ話を続けた。
「僕たちが住んでいたところは、海も畑も近く、結構のどかなところだった。あとは新鮮な食べ物
が手に入りやすかったので料理がおいしかったくらいだな……」
 と、いたって真面目に受け答えていたが、彼の頭の中には彩華の体についての妄想が浮かび
始めていた。普通の高校生男子なら当然なのかもしれない。
 しかし学校一のお嬢様と田舎生徒ではつりあわないだろう、と思ってみたりしたが、やはり彼の
本心は(いつかはアタックしてやる)と思った。

 彩華は確かに【お嬢様】である。
 常に流行の最先端であろう服を着て毎日登校している。一体何枚持っているのだろうかと数
えたくなるくらい、とっかえひっかえ様々な服を着ている。
 彼女は私服通学のメリットを最大限活用している。
 一方同じ女子として、沙奈は私服通学について少し困っている。
 今までは制服のある学校だったから毎日の服選びに困っていなかったのだが、いざ私服の
高校になると、毎朝何を着ていいのか迷ってしまう。ただでさえ手持ちの洋服の数がそんなに
多くなく、かと言って男子生徒のように数日間同じ服と言うのもどうかと思うし……女の子と言
うものは色々気を使うものだ。
〔人間肝心なものは中身だ〕という信念を持つ桜子のようにはなかなか行かず、事あるごとに
彩華やほのかのお世話になっている。
 金に困らない【お嬢さん】でない中流階級の子である沙奈には、経済力が乏しいのは当然だ。
 悟のように手ごろなアルバイトがあるというわけでもない。
 けどグループ同士の結束は強く、ファッションに関して人一倍うるさい彩華が、時々沙奈と桜
子に、要らなくなった服を譲ってあげたり、ブランド服を安く売るアウトレットモールやリサイクル
ブティックの情報を紹介してあげている。
 それゆえに沙奈は着るものに関してはとりあえず心配しなくなった。また、時々4人で出かけ
る埼玉県富士見市にあるアウトレットモールに行き、そこで出店している店が、ほのかの母の
友人が経営していて、2人だけいわゆるB級品を特別に割り引いて売ってくれるので、金持ち
ではない2人にとってかなり助かっている店でもある。

 10月も中旬になり、服装も夏から秋物、そして冬服へと移り行く頃。
 先月4人で買い物した時に買った服を着ている沙奈は、昇降口で珍しく派手な服を見にまと
った桜子に逢った。
「サクラさんもあの店で買った服を着ているんだ」
「そうです。私も女なのだから、たまにはおしゃれをしないと、と思いまして」
 言葉は相変わらす丁寧だが、明らかに他の女の子に染まり始めている。
 沙奈は(桜子さんも私たちに出逢って少しずつ変わってきたね)とにっこり微笑んだ。すると桜
子の口から意外な言葉が返ってきた。
「そういえば唯崎さん、今月のショッピングには一緒に行かないって連絡がありました。一体ど
うしたのでしょう?」
「先月までは喜んで買い物をしたんだけど、きっと何かあったのかも……」
 時同じ頃、世の中では金融グループの破綻を発端とする急速な景気悪化が、ニュースで大き
く取り上げられていた……。
 翌日、沙奈はほのかを誘い、昨日の事についてさりげなく話した。彼女は相変わらず新品の鮮
やかな色のスカートを履いている。
 するとほのかは、
「せっかく誘ってくれたんだけど、今日は町田の親戚の家に行くから……」とあしらわれた。
 そのまた別の日も、
「今度の日曜日は春日部のデパートへ買い物に……」
とのそっけない一言。すると沙奈は機転をきかせて、
「春日部は私は行ったことが無いから一緒に連れてって」と言っても、返ってくるのはあいまい
な言葉ばかり。
 何となく私と2人で行くのは、ほのかにとって気が向かないのだろうか……。
 確かに、出会ってまだ2ヶ月くらいしか経っていないし、ほのかの事を良く知っているとまでは
いかない。かといって私を嫌っているような振る舞いはしてないし、彼女に意地悪をした覚えは
無いし……。
 彼女もそれなりの事情があるから、色々と一人で買い物するのだろうか。気兼ねなくショッピ
ングをするのもまたいいのだし、と思っていた。
 その日の夜、沙奈はここ数日間のほのかの行動について、ほのかの同級生である悟に相談
してみた。
「クラスでは別段変わった風には見えないけど。……ただサナが挙げた所ってみんな関東近
郊にある駅じゃない。そんなに頻繁に出かけて電車賃とかは困らないの?」との答え。
「そんなこと無いって!ほのかさんは売れっ子デザイナーの子なんだから、お小遣いも沢山も
らっているって!だって毎日新しい服を着こなしているし、かばんに付いているアクセサリーも
増えているし……」
 勿論彼女から懐具合を聞いた訳では無い。しかし、ぱっと見た目では経済的に潤っている様
に見えるし、出逢った当初からほのかは〔おしゃれで少し子供っぽいところがかわいい〕という
イメージが確立されている。
 何となく腑に落ちない箇所がありつつ、悟も納得せざるを得なかった。
 そんな沙奈であったが、ある日突然、ほのかに対してのイメージが大きく変わった出来事が
起きた。
【続く】