第6節 中間テスト狂奏曲

 金持ちが集まる麻布が丘高校も、れっきとした私立高校なので、年5回の定期テストはきち
んと行われている。
 麻布が丘高校は大学進学校ではないので、生徒の学力は並程度であるが、教師は問題作
成に決して手を抜いていない。更には教師に多めに袖の下を差し出したら赤点をとっても大目
に見てくれて、特別に点を加えてくれるなんぞは絶対に行っていない。
 岡村たちのグループも中間テストが近づくにつれ、少しずつ試験勉強をするようになった。グ
ループならではの強みで、お互いに情報を共有し、不得意分野を共同で克服させ、さらには友
情を深める事が出来有益である。
 この手の話のお約束になってしまうが、勉強に関してはついつい後手後手に廻ってしまい、
結局は談笑と飲み食いなどに終始する会合になってしまう事もしばしば。
 それでもテスト数日前になると、女性陣は岡村家や学校の図書室で秀才の桜子を誘って4人
で真面目に試験勉強。
 一方男性陣はそれぞれ独学で行い、学食で顔を合わすたびに、
「どこが出そう?」
「今回はこのあたりが怪しい」
とヤマを張りまくっていた。
 そういう男たちに限って、テストのヤマ勘というものはたいてい外れるもので……。
「結局ここは出なかったな……必ず出ると信じて、今まで必死で覚えたのに……」
圭が溜息をつきながらつぶやいた。
「あんたらも俺と同類だな。テストは甘くかかるものではないな」
横から幸親が相槌を打つ。やはりテストで惨敗した口であろう。

 一週間後。
 教師からテストの答案が返ってきた。学力が平均以上の桜子・悟・沙奈はどの教科も、概ね
いい成績だったが、他のメンバーはやはりというかいまいちなもので……。
 けど、サッカー部に所属している佳宏と博樹はなぜか物理の成績が良いのだ。特に佳宏は
多くの教科の成績が概ね50点以下でありながら物理だけが90点なのだ。
(赤点すれすれの教科もあるのに……なぜだろうか)
 同じクラスではないので断定は出来ないが、勉強に関しては積極的に授業に参加していない
タイプである。だからと言って特別物理だけが得意教科というわけでもない。
 悟は不審に思い、
「ひょっとして、カンニングしたんだろ、それとも先生から問題を教えてもらったのか?」
と問いただしてみた。
 佳宏は、その点は堂々としており、
「先生が見ている中でカンニングする事は出来ない。ましては先生からどの問題が出るかも聞
いていない。それは本当だ。ただ俺たちは、サッカー部の部長から過去問のコピーをもらって、
その中の範囲で勉強したんだ……」
 彼は無実を訴えている。そうなると疑るほうが悪くなり、
「分った。君を疑って悪かった」
と謝ったほうが無難だと判断した悟であった。
 佳宏は真面目に勉強したのか、と断定したもののまだ腑に落ちない。
 一応物理担当の鈴木先生にもテストの事について聞いてみた、
「テスト中は皆真面目に取り組んでいたのは事実で誰も不正はして居なかった。……毎回採
点しているが、私の科目は比較的優秀な成績の人が多い、特にサッカー部員とかは……」
「やはりそうですか?」
悟は先生の発言に口を挟んだ。
「10年近く物理を担当しているが、以前からサッカー部員は概して成績がいいのは承知だ。け
ど授業で教えている範囲は毎年、大体似たようなところばかりだし、そもそも基本さえしっかり
判っていればテストの問題くらい大方解けるはずだ」
 確かに真面目に勉強していたのだ。けど、先生の発言が気になる。
 物理の問題用紙を丁寧に見ると、確かに授業中に先生が口をすっぱくして言っていた箇所が
そのまま出題されている。しかも物理は公式さえ身についていれば楽に糸口が見つかるもの
だ。とすると……。
 悟は新聞部という職務を生かし、校内で【取材】をする事にした。
 サッカー部員に、名前を新聞に載せない条件で、物理のテスト勉強方法について聞いてみ
た所、やはりと思われる答えが返ってきた。
「鈴木先生なら、何年かおきに同じ問題を繰り返してテストに出している。勿論数値はそのつど
変えているけど」
「うちの部活は昔からこの事実を知っていて、部の伝統で物理のテストを保管していて毎年2年
生に過去の問題をコピーしているんだ」
 何人かの生徒の聞き込みによってやっと謎が解けた。
 佳宏たちは、鈴木先生が過去に出題した問題を集中的に勉強(暗記)していたのだ。だから
同じような問題が運良くテストに出題されたので好成績が取れた。という事だ。
 悟は翌日、改めて佳宏に、
「君のテストの答案について不審に思ってしまって悪かった。ごめん」と謝った。
「ま、いいってことよ」
 意外とあっさりとした受け答えにやや意外に思った。
 けどこれが本来の佳宏の地なのかな、とも感じた。もしかしたら幸親よりも物事を深く考えて
いないだけなののか。
 まあ、二人の仲が悪化しないだけでも良かった、と思い、今後は余り人を疑らない事を誓った
悟であった。

【続く】
第6節 中間テスト狂奏曲

 金持ちが集まる麻布が丘高校も、れっきとした私立高校なので、年5回の定期テストはきち
んと行われている。
 麻布が丘高校は大学進学校ではないので、生徒の学力は並程度であるが、教師は問題作
成に決して手を抜いていない。更には教師に多めに袖の下を差し出したら赤点をとっても大目
に見てくれて、特別に点を加えてくれるなんぞは絶対に行っていない。
 岡村たちのグループも中間テストが近づくにつれ、少しずつ試験勉強をするようになった。グ
ループならではの強みで、お互いに情報を共有し、不得意分野を共同で克服させ、さらには友
情を深める事が出来有益である。
 この手の話のお約束になってしまうが、勉強に関してはついつい後手後手に廻ってしまい、
結局は談笑と飲み食いなどに終始する会合になってしまう事もしばしば。
 それでもテスト数日前になると、女性陣は岡村家や学校の図書室で秀才の桜子を誘って4人
で真面目に試験勉強。
 一方男性陣はそれぞれ独学で行い、学食で顔を合わすたびに、
「どこが出そう?」
「今回はこのあたりが怪しい」
とヤマを張りまくっていた。
 そういう男たちに限って、テストのヤマ勘というものはたいてい外れるもので……。
「結局ここは出なかったな……必ず出ると信じて、今まで必死で覚えたのに……」
圭が溜息をつきながらつぶやいた。
「あんたらも俺と同類だな。テストは甘くかかるものではないな」
横から幸親が相槌を打つ。やはりテストで惨敗した口であろう。

 一週間後。
 教師からテストの答案が返ってきた。学力が平均以上の桜子・悟・沙奈はどの教科も、概ね
いい成績だったが、他のメンバーはやはりというかいまいちなもので……。
 けど、サッカー部に所属している佳宏と博樹はなぜか物理の成績が良いのだ。特に佳宏は
多くの教科の成績が概ね50点以下でありながら物理だけが90点なのだ。
(赤点すれすれの教科もあるのに……なぜだろうか)
 同じクラスではないので断定は出来ないが、勉強に関しては積極的に授業に参加していない
タイプである。だからと言って特別物理だけが得意教科というわけでもない。
 悟は不審に思い、
「ひょっとして、カンニングしたんだろ、それとも先生から問題を教えてもらったのか?」
と問いただしてみた。
 佳宏は、その点は堂々としており、
「先生が見ている中でカンニングする事は出来ない。ましては先生からどの問題が出るかも聞
いていない。それは本当だ。ただ俺たちは、サッカー部の部長から過去問のコピーをもらって、
その中の範囲で勉強したんだ……」
 彼は無実を訴えている。そうなると疑るほうが悪くなり、
「分った。君を疑って悪かった」
と謝ったほうが無難だと判断した悟であった。
 佳宏は真面目に勉強したのか、と断定したもののまだ腑に落ちない。
 一応物理担当の鈴木先生にもテストの事について聞いてみた、
「テスト中は皆真面目に取り組んでいたのは事実で誰も不正はして居なかった。……毎回採
点しているが、私の科目は比較的優秀な成績の人が多い、特にサッカー部員とかは……」
「やはりそうですか?」
悟は先生の発言に口を挟んだ。
「10年近く物理を担当しているが、以前からサッカー部員は概して成績がいいのは承知だ。け
ど授業で教えている範囲は毎年、大体似たようなところばかりだし、そもそも基本さえしっかり
判っていればテストの問題くらい大方解けるはずだ」
 確かに真面目に勉強していたのだ。けど、先生の発言が気になる。
 物理の問題用紙を丁寧に見ると、確かに授業中に先生が口をすっぱくして言っていた箇所が
そのまま出題されている。しかも物理は公式さえ身についていれば楽に糸口が見つかるもの
だ。とすると……。
 悟は新聞部という職務を生かし、校内で【取材】をする事にした。
 サッカー部員に、名前を新聞に載せない条件で、物理のテスト勉強方法について聞いてみ
た所、やはりと思われる答えが返ってきた。
「鈴木先生なら、何年かおきに同じ問題を繰り返してテストに出している。勿論数値はそのつど
変えているけど」
「うちの部活は昔からこの事実を知っていて、部の伝統で物理のテストを保管していて毎年2年
生に過去の問題をコピーしているんだ」
 何人かの生徒の聞き込みによってやっと謎が解けた。
 佳宏たちは、鈴木先生が過去に出題した問題を集中的に勉強(暗記)していたのだ。だから
同じような問題が運良くテストに出題されたので好成績が取れた。という事だ。
 悟は翌日、改めて佳宏に、
「君のテストの答案について不審に思ってしまって悪かった。ごめん」と謝った。
「ま、いいってことよ」
 意外とあっさりとした受け答えにやや意外に思った。
 けどこれが本来の佳宏の地なのかな、とも感じた。もしかしたら幸親よりも物事を深く考えて
いないだけなののか。
 まあ、二人の仲が悪化しないだけでも良かった、と思い、今後は余り人を疑らない事を誓った
悟であった。

【続く】