天使は半ばあきらめたような口調で、
「中古でよければ弓を差し上げよう。矢は普通の威力のでよければ1本500円で構わない」
佐々木は(足元を見られているな……)と思いながら、今月のバイト代の中からなけなしの1
万円を天使に渡した。
5分後天使は銀メッキがはがれている弓と20本の矢を佐々木に渡した。
「これは忠告だけど人間が使うと威力が薄れる。あと説明書は読んでおいたほうがいい」
天使はいつもと違った真顔で言った。
佐々木は嬉しそうに了解すると天使は無言で飛んでいった。
早速箱を開けた。中にはぎっしりと弓が詰まっている。箱に入っていた説明書には目もくれ
ずに、早速一本の矢を取り出して弓にセットして引き具合を確かめた。
(これで簡単に恋人ができるというのならば、おいしい商売だな!)
と意味深な笑みを浮かばせた。
翌日、佐々木は弓矢と小道具をかばんに忍ばせて(といっても普通の人には見えないのだ
が)大学に通った。
(さすがにカモがたくさんいるな。なんてったってうちの大学、女子がほとんどいないから)
彼は早速学食に行った。案の定多くの学生がたむろしている。高校時代からの親友である
井上にさりげなく誘ってみた。
「井上、彼女いないだろ。オレ占いに凝っているから特別に君の恋愛運を占ってやる」
井上は藁にもすがる思いで承諾すると佐々木は意味深な呪術の真似をしながら弓を射った。
「当分無理だな。しかし、恋愛の神である出雲大社のお守りを持てば来週にも見つかるだろう。
親友のよしみで特別に5000円で売ろう」
佐々木は紙で作った偽の出雲大社のお守りを渡し、井上から5000円をもらうと祈祷師の真似
をしながら立ち去った。
(本当においしい商売だ。これも天使のおかげだ)佐々木は高笑いをした。
翌週井上は満面の笑みを浮かばせながら佐々木に近づきこう言った。
「佐々木の行ったとおりに日曜に渋谷でナンパしたら2人もGETできたよ。早速友人にも宣伝し
ておくよ。サンキュー!」
それからというもの数人の友人から「恋愛運を占ってくれ」と誘われると喜んで赴き、矢を打ち
まくった。3分の1は矢が折れてしまって商売にならなかったが、占い代として1000円はちゃっ
かり戴いた。
その中で相撲部のとある学生が、歌手の浜崎みたいな彼女がほしいとせがまれ矢を放った
が、たちまち粉々に散っていった。もちろんその学生には無理だと言ってあきらめさせたが。
帰宅して説明書を見たら【対象者の要望が明らかに無理な場合は矢は粉々に砕きます】と
書いてあった。結構いろいろ書いてあるが細かい字を読むのが嫌いな佐々木は一番小さい
文字の項目は読まなかった。
佐々木は【恋愛占い】を行い、弓矢の力を借りて意図的にカップルを誕生し続けた。10日間
で20本の矢を使い切り、10万円もの金を得た。差し引き9万円の利益だ。彼は早速恋人の
留美と食事に行くなどで金を使いまくった。
それから一週間後、井上から
「この前できた彼女に振られてしまった。悪いがもう一度占いをやってくれないか」と強くせが
まれた。先週と一転して彼はひどく落ち込んでいる。天使から買った矢を全部使ってしまった
佐々木にはもう力がない。とりあえず井上には「今は忙しいから」と言いその場をしのいだ。
次の日にも報酬をもらった友人十数人にも井上と同じような内容の苦情を言われた。
中には恋人に散々金品を貢がせておいて、一週間後あっさり別れるといった可哀想な人
もいた。
佐々木は意外な結末に驚き、その学生らに「賠償しろ!」と追及され、あれこれ思案した結
果、天使の弓矢のことは伏せ、
「占い行為を学校に見つかってしまい祈祷道具やお守りを没収された。あの占いも本を見て
やっただけなので今は同じようにはできない。すまないが許してくれ」と謝罪した。
大半の友人はしぶしぶながらも納得し、数人は報酬の半額を返却させた。もっともバツが悪
いのは井上だ。友人をはじめ相当数の学生に宣伝してもらったし、彼も被害者の一人だ。
佐々木は留美と相談し、3人で居酒屋に行き、改めて謝罪し、飲食もおごってあげた。酒豪
の井上は酒で悲しみを忘れようとしたのかビール10杯も平らげていた。
報酬の全て+αを失い、一部の友人には信頼まで失った。かろうじて井上との友人関係と、
留美との恋人関係だけが残った感じだ。すっかり天使の罠にはまった感じで悔しさと後悔が
残った。
改めて矢の説明書を読むと、一番小さい文字で【この矢の効力発揮期間は一週間です。気
をつけましょう】とちゃんと書いてあったのだ!
(これさえ分かっていれば井上はじめ多くの友人に忠告できたはずなのに……一週間あれば
自分の努力で恋愛関係は築けるのに……)佐々木は自分の愚かさに反省した。
それ以来佐々木は全ての言動に自制をもつようになった。幸い留美との交際は順調に進ん
でいるし、井上との交友も何とか絶交と言う最悪の事態だけは食い止められた。しかし天使に
対しては今でも感謝と懺悔の気持ちを持ってはいるが……。
天界にある全国天使協会埼玉支部の屋上から天使が佐々木の様子を観察していた。
(やはり予期した事が起きたか。だからキチンと僕の忠告を守っておけばよかったのに。まあ、
これで彼も傲慢な態度を慎むだろう)
すでに佐々木の担当から外れた天使No.420は、先週から井上の担当になっていた。
「さてとそろそろ井上さんに挨拶しないといけないな」
天使は井上に向かってテレパシーを発した。
「これで井上さんには僕の姿が見え、連絡が取る事が可能になった。あとは井上さんが僕を
呼んでくれるかを待つだけだ」
とつぶやくと天使は今日もさっそうと埼玉の上空を漂いはじめた。
井上はあれ以来毎週のごとく渋谷や原宿でナンパをしまくっているが、彼の希望が高いのか
いつも分相応以上の女性をアタックしては振られ続けている。
「やっぱり俺はもてないんだ。……それにしても佐々木はいいな〜、あんなに簡単に彼女を
見つけられるし。もし本当にいるのならば天使が俺についてくれればな〜」
天使は井上からの早速の呼び出しを受け、彼の背後に降下した。
「ちゃんとあなたの後ろにいますよ〜」
【完】
「中古でよければ弓を差し上げよう。矢は普通の威力のでよければ1本500円で構わない」
佐々木は(足元を見られているな……)と思いながら、今月のバイト代の中からなけなしの1
万円を天使に渡した。
5分後天使は銀メッキがはがれている弓と20本の矢を佐々木に渡した。
「これは忠告だけど人間が使うと威力が薄れる。あと説明書は読んでおいたほうがいい」
天使はいつもと違った真顔で言った。
佐々木は嬉しそうに了解すると天使は無言で飛んでいった。
早速箱を開けた。中にはぎっしりと弓が詰まっている。箱に入っていた説明書には目もくれ
ずに、早速一本の矢を取り出して弓にセットして引き具合を確かめた。
(これで簡単に恋人ができるというのならば、おいしい商売だな!)
と意味深な笑みを浮かばせた。
翌日、佐々木は弓矢と小道具をかばんに忍ばせて(といっても普通の人には見えないのだ
が)大学に通った。
(さすがにカモがたくさんいるな。なんてったってうちの大学、女子がほとんどいないから)
彼は早速学食に行った。案の定多くの学生がたむろしている。高校時代からの親友である
井上にさりげなく誘ってみた。
「井上、彼女いないだろ。オレ占いに凝っているから特別に君の恋愛運を占ってやる」
井上は藁にもすがる思いで承諾すると佐々木は意味深な呪術の真似をしながら弓を射った。
「当分無理だな。しかし、恋愛の神である出雲大社のお守りを持てば来週にも見つかるだろう。
親友のよしみで特別に5000円で売ろう」
佐々木は紙で作った偽の出雲大社のお守りを渡し、井上から5000円をもらうと祈祷師の真似
をしながら立ち去った。
(本当においしい商売だ。これも天使のおかげだ)佐々木は高笑いをした。
翌週井上は満面の笑みを浮かばせながら佐々木に近づきこう言った。
「佐々木の行ったとおりに日曜に渋谷でナンパしたら2人もGETできたよ。早速友人にも宣伝し
ておくよ。サンキュー!」
それからというもの数人の友人から「恋愛運を占ってくれ」と誘われると喜んで赴き、矢を打ち
まくった。3分の1は矢が折れてしまって商売にならなかったが、占い代として1000円はちゃっ
かり戴いた。
その中で相撲部のとある学生が、歌手の浜崎みたいな彼女がほしいとせがまれ矢を放った
が、たちまち粉々に散っていった。もちろんその学生には無理だと言ってあきらめさせたが。
帰宅して説明書を見たら【対象者の要望が明らかに無理な場合は矢は粉々に砕きます】と
書いてあった。結構いろいろ書いてあるが細かい字を読むのが嫌いな佐々木は一番小さい
文字の項目は読まなかった。
佐々木は【恋愛占い】を行い、弓矢の力を借りて意図的にカップルを誕生し続けた。10日間
で20本の矢を使い切り、10万円もの金を得た。差し引き9万円の利益だ。彼は早速恋人の
留美と食事に行くなどで金を使いまくった。
それから一週間後、井上から
「この前できた彼女に振られてしまった。悪いがもう一度占いをやってくれないか」と強くせが
まれた。先週と一転して彼はひどく落ち込んでいる。天使から買った矢を全部使ってしまった
佐々木にはもう力がない。とりあえず井上には「今は忙しいから」と言いその場をしのいだ。
次の日にも報酬をもらった友人十数人にも井上と同じような内容の苦情を言われた。
中には恋人に散々金品を貢がせておいて、一週間後あっさり別れるといった可哀想な人
もいた。
佐々木は意外な結末に驚き、その学生らに「賠償しろ!」と追及され、あれこれ思案した結
果、天使の弓矢のことは伏せ、
「占い行為を学校に見つかってしまい祈祷道具やお守りを没収された。あの占いも本を見て
やっただけなので今は同じようにはできない。すまないが許してくれ」と謝罪した。
大半の友人はしぶしぶながらも納得し、数人は報酬の半額を返却させた。もっともバツが悪
いのは井上だ。友人をはじめ相当数の学生に宣伝してもらったし、彼も被害者の一人だ。
佐々木は留美と相談し、3人で居酒屋に行き、改めて謝罪し、飲食もおごってあげた。酒豪
の井上は酒で悲しみを忘れようとしたのかビール10杯も平らげていた。
報酬の全て+αを失い、一部の友人には信頼まで失った。かろうじて井上との友人関係と、
留美との恋人関係だけが残った感じだ。すっかり天使の罠にはまった感じで悔しさと後悔が
残った。
改めて矢の説明書を読むと、一番小さい文字で【この矢の効力発揮期間は一週間です。気
をつけましょう】とちゃんと書いてあったのだ!
(これさえ分かっていれば井上はじめ多くの友人に忠告できたはずなのに……一週間あれば
自分の努力で恋愛関係は築けるのに……)佐々木は自分の愚かさに反省した。
それ以来佐々木は全ての言動に自制をもつようになった。幸い留美との交際は順調に進ん
でいるし、井上との交友も何とか絶交と言う最悪の事態だけは食い止められた。しかし天使に
対しては今でも感謝と懺悔の気持ちを持ってはいるが……。
天界にある全国天使協会埼玉支部の屋上から天使が佐々木の様子を観察していた。
(やはり予期した事が起きたか。だからキチンと僕の忠告を守っておけばよかったのに。まあ、
これで彼も傲慢な態度を慎むだろう)
すでに佐々木の担当から外れた天使No.420は、先週から井上の担当になっていた。
「さてとそろそろ井上さんに挨拶しないといけないな」
天使は井上に向かってテレパシーを発した。
「これで井上さんには僕の姿が見え、連絡が取る事が可能になった。あとは井上さんが僕を
呼んでくれるかを待つだけだ」
とつぶやくと天使は今日もさっそうと埼玉の上空を漂いはじめた。
井上はあれ以来毎週のごとく渋谷や原宿でナンパをしまくっているが、彼の希望が高いのか
いつも分相応以上の女性をアタックしては振られ続けている。
「やっぱり俺はもてないんだ。……それにしても佐々木はいいな〜、あんなに簡単に彼女を
見つけられるし。もし本当にいるのならば天使が俺についてくれればな〜」
天使は井上からの早速の呼び出しを受け、彼の背後に降下した。
「ちゃんとあなたの後ろにいますよ〜」
【完】