「なら、あたしが知っている学校の秘密を守れるならいいよ。チクったり誰かに発覚したりしたらあ
んたも同罪になるんだから、これでいいね!」
 無理やり連帯責任を押し付けるみたいではあったが、涼子は仕方なく了承すると、綾香は涼子を
屋上の隅に誘った。
 屋上の隅に数個のダンボール箱が置かれている。それを開けると、中には……
「こ、これは凄い!!」
 ダンボールの中には教師が生徒から没収した品が箱一杯に入っていた。タバコの箱、ライター、
ナイフ、酒のビン、缶ビール、アダルト関係の雑誌・ビデオテープ・DVDソフト等。しかもタバコや酒
類はすべて蓋が開けられ空の状態になっている。
「つまり、これは……」涼子は言いかけると、綾香は冷めた口調で、
「生徒から没収したものを教師が勝手に飲んだり吸ったりしている」
 いわば教師の特権で自分だけがいい思いをしているのである。雑誌も所々破られた跡がある。
「先生も生徒から没収したグラビアを〔夜のおかず〕にしているとは……」
 二人は〔先生も人の子〕だと改めて知らされたみたいであった。
 綾香は「いいか、これを知っているのはあたしとあんただけだ。絶対に他言無用だ!そして今度
は『あたしの秘密』だ。もちろん学校であたしがこの学校の生徒と「大人の遊び」をしている事は知っ
ている筈だ。そのうち何人かは淫ら(みだら)な行為をしているんだ!」
 涼子は(やはり……)と思った。綾香は言い終わると制服の胸ポケットから一冊の手帳を取り出し
涼子に見せた。男子生徒と綾香の2ショットプリクラ写真と、その脇に名前と数字が書かれている。
 涼子は手帳を一通り目を通した。クラスメイトの男子生徒も含まれていて興味深そうに見ながら、
「なになに、15 3-2 佐々木幸一 175/60/15 40 3−1 本木健二 170/70/13……本当に
沢山の生徒と遊んでいるんだね。けどこの数字、身長・体重は分かるが、3番目はもしかして年齢?
それだとここに書いている子はほとんどが中学生になっちゃうからひょっとして精神年齢??」
 綾香は「バーカ!男の3サイズ『身長と体重と後ひとつ』は例えウブでもある程度は分かるだろ!」
 そこまでヒントをもらってもまだ思案している涼子の耳元でわざと意地悪っぽく、
「つ・ま・り【マンモスサイズ】の事!!」と囁いた。
 涼子はようやく納得したみたいで一瞬顔が赤らんだ。そして手帳の数字を改めて見返すと更に頬
がほころんだ。
「本当に男子生徒と〔楽しい遊び〕をしているんだ……」涼子は何となく綾香を羨ましく思った。
「涼子の恥ずかしがっている顔とても素敵!これだけであたし満足!」
 綾香にしてみれば優等生が普段学校で絶対に見せる事の無い表情をしたのがとても嬉しかった。
 涼子も綾香がが意外と子供っぽい面があるのには安心してきた。
「これで『今日のあたしの秘密』はこれまで。次はあたしからの頼みを聞いて欲しい」
 涼子はその言葉に何となく心配になった。「今から裸になれ」と言われる事も一応は覚悟してい
た。男と遊んでいる綾香ならこんな台詞も言いかねないし……もしかして既に数人の男子高校生
が裏で待ちかねていて今から【歓迎の宴】とか適当に称しここで盛大に【ここには書けない行為】
を行するとか……
 けど綾香は涼子の心配を汲み取ったのか、
「あたしだって真昼間から『脱げ』とは言わないよ。あんたも意外とそっちの願望があるんだね!
後でメモしておこう……今日は手始めに」
 綾香はしばしの沈黙の後、妙に甲高いアニメ声で、「眼鏡取った姿が見たいー!」と一言。
 涼子は安心した。こんな事なら朝飯前。涼子にとって別段秘密でも何でもない。
「実は中学の頃からあんたの事は気になって居たんだ……これで長年の謎が解明される!」
(そんなオーバーな……)と涼子は思った。
 眼鏡を外すと綾香はまた甲高い声で、「おおっ!結構かわいーじゃん!眼鏡取ればもてるよ!」
 すかさず持っていた携帯のカメラでその姿を数枚ほど撮影した。
「やめてよ、恥ずかしいから!」涼子が叫ぶと「裸撮られるよりマシ!」と一蹴された。
「……この場所を知ってから、嫌な科目の授業がある時間や、先生に叱られた後、誰も来ない屋
上で寝そべって、楽しい事を考えながら勝手に西に沈む太陽や気ままに流れる雲の行く末を眺め
るのが少し前から日課になっていたんだ……」
 綾香の何気ない一言により、普段は校内で派手に振る舞い常に輝いて見えていた彼女の裏側
の姿を涼子は垣間見た感じであった。綾香は家庭の事情や成績優秀な涼子をいつも嫉みながら
も尊敬していた事も教えてくれた。
「あたいはあんたと世界が違うから絶対に親しくなれないと思っていた……」
 閉ざしていた心を打ち明けた綾香に感激したのか、涼子も、滑り止め高校に入らざるを得なくなっ
た時の悲しみやレベルの低い授業内容を退屈に思う日常を初めて打ち明かした。もちろんガリ勉と
言われて入学以来誰一人男友達が出来なかった心の不満とそれに対する綾香への憧れもそれと
なく話した。涼子も誰かに話したかった事を今まで心の奥深くに仕舞っていたのであった。普段では
見られない優等生の心の闇や【自分と同じ悲しみ】を持っているんだと言う事を知り、初めて面とな
って驚いたり共感したりした。
 校庭のスピーカーから「下校時刻です。校内に居る生徒は早く帰りましょう」と流れた。
 二人は1時間も屋上でだべっていたのだった。
「早く家に帰らないと!」涼子は慌ててカバンを持ちドアを開けた。
「今日からあたしとあんたは友達だね!また明日!」綾香の声は久しぶりに明るかった。
 こうして2人は急に親しい仲になった。綾香は不登校しなくなり、涼子の献身的な努力により次
第に授業にも取り組む姿を見せ始め少しずつ成績が上向いてきた。先生方の心配も収まった。
 けどその副作用として優等生の涼子が男子生徒と遊ぶようになってきたのである。けどこれにつ
いては先生方からあまり心配はしていない。むしろ「生真面目よりもある程度は羽目を外す方が健
全」との考えだ。
 他の生徒も2人の仲は不思議がられていた。何しろ【学校一の問題生徒と学校一の秀才が仲良
し】と言うのが一般の生徒にはどうしても腑に落ちないのである。だから結果として大方の生徒から
は「お互い変わっているからどこか気が合ったのだろう」で処理されている。
 真面目と不真面目・秀才と劣等生。正反対同士がお互いの長所に惹かれ自分の持ち味を生かし
お互いの弱点を埋めあっている。考え方によっては理想のコンビであるが、この2人の場合どうして
も性格が正反対なので二人の意見が噛み合わず喧嘩になる事もある。だからこそ他人の目からは
「お互い変わっているからどこか気が合う」で片付けられるのであろう。
 今日も2人の言い争いをしている。傍から見れば他愛のない話なのだが……。
「また昨日も夜まで〔頑張っていた〕んだね!せっかく宿題を教えてあげようと思ったのに!」
「仕方なかったんだよ。佐々木くんが『笑顔がキュートな綾香ちゃん、今日も僕と寝よう!』と言われ
たら断りきれなかったんだよ!」
「あーあ。またいつものおだてに乗せられたんだな!」
「『豚もおだてりゃ木に登る』だって悪くないさ。おかげで夕べは2回戦まで盛り上がったんだから!」
「……よくこんな古いアニメの文句知っているね…『何とかとハサミは使いよう』が正しい使い方!」
「そんなあんたも良く知ってるね!けど、その『何とか』って何だよ!」
「だからあなたのこと!」
「ははあ、『かわいくてナイスボディの綾香とハサミは使いよう』か」
「そんなことわざ存在しない!勝手に作るな!あなたの魅力と派手さとテクニックには負けるけど」
「そうよ、あたしは何てったって校内一の美女なのだから!」
「また自慢話が始まったよ。確かにあんたが学校で一番のゆうがとう的存在なのは認めるけどね」
「『ゆーがとー』??それって砂糖の一種??」
「『誘蛾灯』!夜に点灯して蛾や虫を誘い集めて捕殺する装置。あなたにぴったりな言葉ね!」
「ううむ……褒められているのか、けなされているのか……」
ちょうどその時チャイムが鳴った。2人の言い争いも何とか終わった。
 本当に2人はいい仲である。たとえ性格が違っても今のところお互いの思惑で堅くつながってい
る。たとえ誰かが「凸凹コンビ」と言われても気にしない。むしろお互いの無い部分を程よく刺激しあ
っているので毎日が楽しい。
 綾香と涼子、校内一の凸凹コンビは今日も仲良し。勉学も遊びも2人ならば敵無し。2人のドタバタ
高校ライフはまた別の機会にじっくり語るという事で!
【続く】
眼鏡祭 お題バトル参加作品 (お題「サングラス」「ド近眼」「初めて」)
参考資料:広辞苑第5版 (岩波書店) 参考サイト:yahoo知恵袋