第4章  仲間
 麻美は【八百万の神様】から【力】を授かって以来動物が好きになった。以前は公園にいるスズ
メやハトにもあまり興味を示さなかったが、今では彼らも【仲間】になっている。
 この段階になると自分でもペットを飼いたいと言う情熱が湧いてくるのが普通である。
 けど杉野家では犬猫は以前から飼っていなかった。理由は父が動物嫌いだから。何でも、父が
中学生の時に友人の家で飼っていた犬に噛まれてから、動物はペットといえども嫌いになったらしい。
 その事を麻美は知っていた。それでもペットを飼いたいと思うのが本心だ。
 無理を承知で父に聞いてみたところ、犬猫以外の金魚や小鳥くらいなら飼っても大丈夫だという。
 麻美自身も犬や猫は育てるのが大変だと思っている。それもそのはず、麻美は大変だと思う事は
自ら避けている傾向がある。もちろんこんな性格だから他人から「消極的」だと言われても仕方がな
いのであるが。
 季節は秋に入り始めている。暦の上では秋のなのだが、まだまだ夏の太陽が勢い良く関東地方
を照り返している。
 そんな中、麻美が何気なく地域のミニコミ誌を読んでいたら【ペットあげます】のコーナーに、こん
な内容が書いてあるのを目にした。
〔ハムスター 近場の方無料で差し上げます。 佐倉市 岩崎聖子〕
(ハムスターか!かわいくていいかも・・・)麻美は思った。
 その瞬間(飼ってみたい!!)という思いが高まった。
 親に相談したところ、
「ハムスターくらいならいいだろう。世話はきちんとするんだよ!」との了解を得た。
 早速麻美はミニコミ誌に掲載しているハムスターを譲ってくれる岩崎さんという人に連絡をした。
 電話に出たのは声や話し方から推定して40歳くらいの女性だった。
 麻美は「ミニコミ誌のペット欄を見た四街道市の杉野と言います……」と話し始めた。
 麻美は親の承諾を得た旨を伝えると岩崎さんは、
「今度の日曜に取りに来てください。お待ちしています」と答えた。
 麻美は早く日曜が来ないかなと、早くも心がうきうきした。
 翌週の日曜日。麻美は最寄りのJRの駅から2駅目の駅に降りた。そして駅前の国道を横切って
5分位歩くと岩崎さんの家があった。
「こんにちは。ハムスターをもらいに来た杉野ですが……」
 麻美は大きな玄関の前でやや緊張していた。
 すると奥から「いらっしゃい!」と元気な声がした。
 出てきたのは電話で応対した声とは想像も付かない元気なおばあさんだった。
 外見から判断しても70歳は過ぎているのだが真っ赤な服を着てきちんと化粧もしている。
 麻美は岩崎さんのことを電話での対応から40代くらいの主婦の方かと思っていたが、麻美の予想
を見事に裏切った。
岩崎さんは、
「私の名前の事ね。よく若い人と間違えられるのよ。母がクリスチャンだったので、私を当時として
は珍しい『聖子』と名づけたのよ」と笑いながら語ってくれた。
 麻美は岩崎さんに案内されて奥の部屋に通された。六帖間の隅に大きいケージがあり、何匹もの
ハムスターが飼われていたのである。
「友人に『臭いも少ないし小さいから初心者でも飼いやすいよ』と言われ、ひと番(つがい)飼ってみ
たけど、あっという間に増えちゃって……」と岩崎さんは苦笑した。
 ケージの中のハムスターは麻美の想像していたのと違っていた。
「それは【ジャンガリアンハムスター】といって小さくて人になつっこい種類なのよ」
と、麻美に丁寧に教えてくれた。
 ちなみに麻美は昔からあるゴールデンハムスターしか知らなかった。最近はジャンガリアンのほう
が飼い易い為人気が急上昇しているという。
 岩崎さんはケージの中から適当に5匹を選んで麻美の目の前に差し出した。どれもとても元気で
愛嬌があってかわいい。
 麻美は一匹ずつ耳元に持ってきた。ハムスターが麻美に向かってささやいてきた。
「俺にしてくれよ。こんなに数がいっぱいだとえさを食べるのにも精一杯だし……」
「早くここから出て一匹で悠々と暮らしたいわ!」
 それぞれのハムスターの主張が麻美には聞こえてくる。けど麻美は彼らの発言にあまり感心しな
かった。ありきたりな内容だからであった。 けど3匹目を手にした瞬間、麻美はこのハムスターから
強い【力】を感じた。
「あなたはマミちゃんだね。お会いできて嬉しいです」
「!!」
 麻美はこの言葉を待っていたかのようだった。岩崎さんに気づかれないように小声で話した。
「なぜ私の名前を知っているの?」
 すると「近くを飛んでいるハトさんから聞いたんだ。このあたりに出雲の八百万の神から表彰され
た子がいると聞いて……」
「そうか……私はもう千葉県北部あたりの動物界(?)では結構な有名人なんだ」と思った。
 麻美は手のひらにハムスターを抱えながら岩崎さんに、
「この子にします!」と言った。
「ほう。決まったか!よかったよかった。うまく飼うんだよ」
と笑顔で話し、そのハムスターを小さいかごに入れてくれた。
 そして岩崎さんに礼を言うと大きな家を後にした。
 帰り道で麻美はハムスターに、
「今日から君の名前は『チャッピー』に決めたよ!」と話した。
 チャッピーは、
「わかった。よろしくね。マミちゃん」
と答えると、かごの中でくるっと一回転をした。
「今日から私の相手になる頼もしいハムスターね!」
 いつもより上機嫌な麻美であった。
……・これからマミとチャッピーとの不思議な物語が始まります。どんなことが一人と一匹に待ち構
えてくるのか……。それだけでもわくわくする麻美であった。

【続く】