第3章 公園
 麻美には亜紀ちゃんという親友がいる。麻美が小学生の時分、亜紀ちゃんは別の小学校に通っ
ていた。
(中学校は市内のいくつかの小学校の学区を統合するのが一般的である。)
 中学に入り麻美と亜紀ちゃんは同じクラスになり、それ以降二人は親しくなった。
 麻美は学校から帰宅後、たまに亜紀ちゃんの家に遊びに行くことがある。尤も2人とも中学生なの
で「遊ぶ」といっても家で音楽を聴きながら談笑したりするくらいだが。
 亜紀ちゃんの家は学校から直接行けば近いが、麻美の家からだとかつての小学校の学区外にな
るので自転車で10分位かかる。
 その途中にそこそこ大きい公園があった。(ここなら何か動物がいそうな気がする……)
 土曜日。麻美は生き物とであるかもしれないという希望を胸に、いつも通り過ぎるだけの公園に行く
事にした。
 麻美の家から自転車をこぐ事7.8分。その公園に着いた。
【城山公園】
 入り口に看板が書かれている。そばにある案内板を見ると比較的規模が大きく、ちょっとした小山
になっているところを中心に遊具があり木々が植わっている。
 麻美は入り口から小山に向かって進んだ。ちょうど小山の頂上に登れる坂の近くに数羽ハトが集ま
っている。
 麻美はハトの群れに向かって「こんにちは!」と挨拶をした。
 そのハトは何羽かそわそわしたかと思うと、そのうち一羽が恐る恐る
「……こんにちは」と答えた。
 麻美が「はじめまして!」と答えた途端、ハトの群れの中から、
「俺達の言葉を理解する人間が居るとは驚きだ」と言ったような言葉が聞こえてきた。
 すると麻美は、元気一杯の声で、
「出雲の八百万の神様が私に動物と話す力を授けてくれたのよ!」と話した。
出雲の八百万の神!!」
 ハトたちは一斉にはっとした。辺りにいたハトは一斉に麻美を崇めはじめている。そして一羽のハト
がさらに別のハトを呼び出すような格好をしている。
 見る見るうちにどこからともなくハトが城山公園に集まり、5分もしないうちに麻美の周りに100羽近
いハトが集まってきた。
 ハトたちは口々に「あなたは素晴らしい!」とか「人間の鑑だ!」とか話し出してきた。挙句の果て
に「ああ、俺はこんな人なら喜んで餌をもらいたい……」とほざくハトもいた。
 ハトたちに取り囲まれた麻美はそこに座ると、
「私はえらくはないよ。何一つ特別なことをしないで、ごく普通に毎日生活しているだけです」と答えた。
 するとリーダー格らしきハトが、
「人間でこんなに謙虚な人は珍しい。本当にいい心の持ち主だ。きっとあなたにいい事がめぐり逢って
くるぞ」と麻美に向かって話した。
 麻美は何を考えたのかハトに向かって、
「その言葉はもしかして予知か何かでしょうか?」
と尋ねた。するとハトは、
「そうではない。ただ単に【そんな気がする】のである」と話した。
「なあんだ、【特技】ではなかったのか……」
 麻美は少しがっかりした。
 その姿を見たのか、リーダー格のハトが、
「あなたにお見せできるのは一羽ずつ連なって飛ぶくらいですね」
 と答えると、早速麻美に披露してくれた。
 輪の外側に居たハトから順に一羽ずつ大空に飛び立っていく。
 空を見上げると、ハトは一筋に連なっているのだった。そして空中の至るところで一回転している。
それはまるで飛行機雲のようだった。麻美はその姿に感激した。
 そして最後の一羽になったリーダー格のハトは、麻美に向かって
「それではまた会おう!」と言うと空に飛び立った。
 麻美は一列に連なって飛んでいるハトに対し、
「今日はありがとう!またどこかで会えるといいね!」と手を振り叫んだ。
 その日以来麻美はこの公園を気に入って、ハトなどに会いに月に1.2回遊びに行く様になったの
は言うまでもない。
【続く】