第2章  出会い
 麻美の家の裏に小さなが神社ある。普段は地元の人や子供達が遊んだり、お年寄りがゲート
ボールをしたりしている。付近住民の鎮守であり、住宅地にあるので参拝客はほとんど来ない。
 裏にあると言って、このあたりは住宅地である為麻美の家からはぐるっと回らないとたどり着け
ない。だから麻美は家の近くにありながらあまり行かないのであった。
 今日は日曜日。麻美は早く【八百万の神様】から授かった不思議な力を使いたくてたまらなかっ
た。なぜなら普段の日は学校があるので事実上無理だし、帰宅時も住宅地を通るので動物らしい
動物に出会えないからだ。
 朝ごはんを食べ終えると、すぐに家を飛び出した。
「そういえば、家の裏のほうに神社があったっけ……」
 麻美は神社に向かって歩いた。
 大きな十字路を右に曲がって200メートル進むと神社がある。ごく普通の小さな神社である。
 良くは知らないが素盞鳴命(すさのうのみこと)を祀っているそうだ。境内には数種類の遊具と広
場がある。今は朝も早い事だけあって境内に居る人は誰も居ない。
(朝の神社って静かね)と思っていると、神社の隅で一羽の鶏が餌をついばんでいるを見つけた。
(やった。さっそく生き物発見!)と麻美は思い鶏に近づいた。
 そのとき「マミちゃん、おはよう」
 と、鶏の方から話しかけてきた。これには麻美も驚いた。蛙の時と同じだ。
 麻美は鶏の側に行くと早速、
「私はこの地域を担当する守り神じゃ」
 と、落ち着いた口調で話してきた。
 麻美は「私を選んでくれた守り神様ですね。お会いできて嬉しいです」と挨拶をした。
「いえいえ、これだけ心の優しい少女は今まで見たことがない。時代が変わったといえばそれまで
だが、最近は心が清い人は少なくなってきたからのお……」
 鶏はしみじみと言った。
「ただ私は当たり前のことをきちんとしているだけです」
 麻美は謙遜したが、鶏にはこれ以上のことが伝わってきている。
「うむ、これからも心優しい子でいてくれよ。そうすればもっともっと沢山の物と話せるようになる
から……」と答えた。
 麻美は受け入れると鶏に先週会った蛙のことを話した。すると鶏は、
「あやつはお調子者でおっちょこちょいだからな……まあ、今も田んぼで元気に歌っているから安
心してくれ給え」
 それを聞いて麻美は安心した。そして麻美は、
「あなたは神様ならば、定期的に出雲のほうに行かれるのですよね」と尋ねた。
 鶏は「そうじゃ。【神】は他の動物には持っていない、一瞬にして空間を移動する特殊な能力を
持っておる。今日はマミちゃんに出会った記念として、特別に披露してしんぜよう!」
 と語り終わると本殿に向かってとことこ歩き始めた。
(……テレポーテーションにしては案外地味だな)と思った瞬間、鶏の体がだんだん透けてきてそ
して姿が見えなくなった。
 麻美は「すごい!!」と一人感動した。そして数分後鶏は麻美の居る神社に戻ってきた。
 鶏は「今出雲の国に行ってきた」と得意げに話した。すかさず麻美は、
「島根県に行ってきた証拠は?」
と意地悪な質問をした。すかさず鶏は羽をはばたかせると数個の付着物が落ちてきた。
 地面に落ちた付着物を嘴で指しながら、
「これが出雲大社の注連縄(しめなわ)の切れ端。これが日本海の海岸に漂っていたワカメの切
れ端。これが祠の近くにある立久恵(たちくえ)渓谷に落ちていた木の葉。これが宍道湖(しんじこ)
のシジミの貝殻、これが松江市のスーパーマーケットのレシート……」
(恐れ入った!さすが「神様」だ。やる事が格段に違う……)麻美は鶏に完全に感服した。
 そして麻美は鶏に、
「そろそろ帰るわ。今日はどうもありがとう。他の神様にも宜しく!」
と言って神社を後にした。
 鶏は去っていく麻美に、
「この意気で頑張るのじゃよ!」と励ましてくれた。
 朝の爽やかさとはまた一味違った、爽やかな気持ちになった麻美であった。
【続く】