「ここからは地上になるのね。まあ今は夜だから、外の景色は分からないけど」
 ポンプの出口は、細長い水槽のようなところである。今までの沈砂池と違って、水の流れがとても
ゆっくりになっている。

 (何をする所なのかな?)と思っていると、
【ここは、最初沈殿池と言います。水流を少なくする事によって水より重い泥等を沈ませて、上澄み
だけを次の槽へと送り込んでいるのです。それだけではなく、水より軽いごみも、この池で掬い取り
ます】と説明してくれた。
 私は小さい頃に遊んだ泥遊びを思い出した。泥水をしばらく放っておくと、水と泥に分離する。ここ
ではこれを応用したものだと納得した。
「で、その泥はどうするの?」麻美は質問すると、
【沈んだ泥(汚泥)は、機械で掻き寄せられて、池の外へ運ばれます。そしてその泥は脱水・焼却さ
れて灰にします。一部は埋め立てられるけど、その灰を使って色々な製品にリサイクルされます】
 下水の汚れでさえも有効利用しているのは素晴らしい事だと思った。
 麻美と水は上澄み液と一緒に次の水槽〔エアレーションタンク〕へと向かう。
【エアレーションタンクでは水中にいる微生物の働きによって汚水の汚れを取り除いているんだ。
微生物も生き物だから、空気を水槽の中に送り込んでおかないと、やがて死んでしまうのさ】

私がエアレーションタンクに入った途端、汚い泥水も一緒に流れ込んできた。

「水をきれいにする所なのに、なぜ泥水が入ってくるの?」と尋ねた。
 水は、【誤解だよ。この泥水は微生物を含んだ水なんだよ。絶えず汚水が入ってくるから微生
物も一緒に入れないと汚水処理のバランスが取れなくなるんだ】と話した。確かに下水処理場
は微生物によって浄化されると言われている。
 さらに水は【子供向けや一般向けの案内書には、『微生物が汚れを食べる』と書かれているが、
本当は微生物は汚れを食べるのではなく、自分の体に汚れを吸着したり取り込んだりして汚泥を
大きな塊(フロック)に変化させて、沈みやすくしてくれるんだよ】と説明してくれた。
そして【こう言った微生物はたくさんの種類があり、水の状態が良い状態と悪い状態では活躍する
微生物も変わっていくので、微生物の種類を観察する事によって水の状態も判るんだ】
 水の解説は続いた。
 エアレーションタンクが下水処理場では一番重要な設備なので、水も一生懸命説明しているのが
麻美にも分かる。
 私たちはフロックが大きくなった汚泥と共に、また別の水槽(最終沈殿池)に到着した。
 ここはさっき通った最初沈殿地と同じく、水の流れがゆっくりだ。
 大きな汚泥フロックと微生物とが、どんどん池の底に沈んでいくのが分かる。そして汚れ分が取
り除かれた上澄み水は、すっかりきれいになっていた。

私は「沈んだ汚泥はどうするの?」と尋ねた。
すると、【微生物はまだ生きているので、大半はさっきのエアレーションタンクに戻されるよ。けど
全体的に汚泥の量が増えているので、一部は池に戻さず脱水・焼却されるんだ】との事。
 微生物もリサイクルしているのであろうか、と麻美は考えた。
 私たちはきれいになった上澄み水と一緒に最終沈殿池を通り抜けた。私は、
「これで下水の処理も終わりだね」というと、水は、
【いやいや、この状態では水は確かにきれいだけど、大腸菌などの細菌がいるんだ。川などに流す
にはこれらの細菌を殺してからではないといけないんだ】
 確かにそれは言えている。下水にはトイレの水も含まれているのだから、万一口に入ったら大変だ。
【だから塩素剤や紫外線放射によって滅菌処理をするんだよ】 
 私たちも消毒され、晴れて下水処理場を後にする事ができた。放流口からきれいになった水がたく
さん川に流れてきている。

 ……私は、水と一緒に下水道施設を旅をしてきた。
 私たちがいつも使っているトイレの水などは、下水処理場できれいにして、再び川に流している
のだと言うことが改めてよく分かった……。
 朝。私は目が覚めた。
 確かに下水道についての夢を見た。今まで見た夢と違ってとても鮮明に覚えている。
 これも夕べ話した【水】のおかげである。
 確かに夢でなければ、自分が小さくなって下水管や処理場の中を旅する事ができない。
 実際に下水処理場に行って見学はできるが、実際に下水の中に入って水の浄化を体感する訳
にはいかない。夢の中であったけど、私にとってとても意義のある内容であった。
 平日なので麻美は普段どおり学校に行った。
 家を出てすぐの交差点に、一回り大きいマンホールがあるのに気がついた。
(これは……)
 夕べの夢で見たマンホールである。このマンホールの下にはポンプがあって下水処理場に繋
がっているのである。よく見ると近くに電気配線などを入れるボックスがあり、そこには〔第一中
継ポンプ場制御盤〕と表記されている。
 夢の通りだ。麻美は改めて日常生活の基盤の一つとして下水道があるということに気がついた。
 これからも水は大切に使おうと決意した麻美であった。
【続く】
取材協力:千葉県四街道市役所
参考サイト:日本下水道協会 http://www.jswa.jp/
※作品中の写真は全て埼玉県で撮影しました。また写真は一例であり、全ての下水処理場が
写真と同じ設備を保有している訳ではありません。

★ 下水処理場に関しては、拙作「大都会の秘密基地」にも掲載していますので、あわせてどうぞ。