12、古都  「古都の寺院の次男坊」
古都・京都。
かつては都が置かれていた時代もあったためか古くから大小多くの寺社が建てられている
寺町としても知られている。碁盤の目のように整然と区切られ落ち着いた町並みで四季を
通して風情があり、いつの時代も観光客が訪れている。
 当たり前だが寺には必ず住職がいて、運営のすべてを行なっている。檀家の世話・葬儀
の際の読経・墓の管理・寺社の建物や宝物の維持管理などなど。
 もっとも檀家や葬儀をした遺族からかなりの布施(ふせ)や墓の管理費が入るので経営
にはそれほど困らないが。京都市東山区は京都市の中で特に寺社が集中する区域として
知られている。

 昭和50年代、京都市東山区にあるとある寺院。この寺に住む住職には二人の高校生が
いる。
 長男のほうは比較的まじめで、寺の仕事も手伝っている。さらに野球部に入っているせ
いか、坊主頭も気にならないで居る。
 一方次男は対照的に、お寺の子に生まれたのが恥ずかしく感じてきていて、服装も派手
にする傾向にある。もちろん自分の家が寺でありながら、坊主はもちろん短髪もかっこ悪い
という事で普通の髪型にしている。もちろん同級生にも自分の家が寺だということを隠し通
している。
 このような性格なので兄弟は昔から仲がそれほど良くないのである。長男はだらしない
弟をみっともないと感じ、一方次男は地味でおとなしい兄を恥ずかしく思っている。
 住職である父親からしてみれば、長男だけでも寺を継いでくれればいい、次男は次男な
りに物事を考えていて彼なりに夢を持っているのだから仕方ない。と考えているのである。
 そんな兄弟も高校を卒業するとそれぞれ別の道を歩み始める。兄は高校卒業後、この寺
を継ぐ事を決意し、すぐにこの宗派の総本山の寺に行き、修行僧になるための修行に入る
為に、生まれた寺を後にしたのである。
 一方次男は高校卒業後、単身東京に出て行ったのである。寺の戒律正しい生活が嫌だ
ったので【自由】を求めて自分の家でもある京都の寺を出て行ったのである。むしろ家出同
然といった形である。
次男は東京で生活を始めるなり、高校時代からためていた貯金と、立川の喫茶店などでア
ルバイトをしその給料で生計を立てていた。今でいうフリーターである。
 3年後、修行を終えた長男が京都に戻ってしばらくたったとき、しばらく音信が途絶えてい
た長男から次男の元に手紙が届いた。
「親父が倒れて入院した。寺の運営は親父の友人である人に依頼してもらっている。そして
俺が急遽親父の代わりに檀家回りや葬儀の際の読経をしている。ゆくゆくは俺がこの寺を
引き継ぐ予定だ……」といった内容だった。
(そうか、兄貴が寺を継ぐのか……)次男は思った。けど地味で生活の制約の多い僧侶に
はなりたくないと寺を出て行った身。兄が僧になった事もひとつの情報としてしか受け止め
ていなかった。
 貯金が底をつき、アルバイトの生活だけでは食べていけなくなった次男は、昭和60年代
には既に物価の高い東京を離れ、栃木県にある運送会社に就職していた。

 時は昭和から平成に入った。時代は変わるもので、日本各地旅ブームで各地の【古都】
が人気スポットになってきたのであった。多くの観光客が雅(みやび)で落ち着いた雰囲気
を求めて老若男女が全国各地から観光に来るようになったのである。
 古都・京都も例外ではなく今までよりもたくさんの観光客でにぎわっていた。有名な寺もそ
うでない寺もまるで博物館を見学するかのように参拝に訪れている。もちろん長男があとを
継いだ寺も……
 ある日次男が会社の非番の日に何気なくTVをつけたら旅番組を放送していた。
【古都を歩く・ガイドブックには載ってない京都穴場探訪】とのタイトル。その番組は次男がそ
れほど魅力に思えなかった近所の寺や土産店が観光穴場となっている事を紹介していた。
そして番組は自分が居た寺も紹介していた。
 さらに次男が驚いたことに立派に僧になった長男がリポーターにインタビューされているの
だ。次男にはTVに映っている長男が輝いて見えた。
これを見て(果たして俺が歩んだ道は正しかったのか……)と考えてしまった。自分は安月
給のしがないサラリーマン。方や長男は多くの檀家を持つ古都の寺の僧侶。そして未来の
住職さま。
 今まで自分が「寺は古臭いし時代遅れ。それに寺というところは年寄りが巡礼や参拝に
行くところだ」と思っていた考えが完全に覆ってしまったのだ。今では若い女性もレジャー
感覚で寺社参りをする時代になったのだった。
(俺の考えが時代遅れだったか……)次男は落胆し、自分の行いを反省した。
(来月給料をもらったら新幹線で兄貴のところに行って、兄貴への労のねぎらいと自分が行
なった行いに対し謝りに行こうかな……)と思う次男であった。
【完】
参考サイト:yahoo知恵袋
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