20、雪兎  「おばあちゃんと縁側」
 昔の日本家屋にはどの家にも【縁側】とい云う場所ががあった。縁側はいわばサンルーフの
役割を果たしているが、そのほかに庭と家の中間的役割としても果たしている。つまり縁側か
ら家の外に出てもいいし、外から来た客と縁側で話す事も出来るである。
 縁側というのはその時や場合によってどんな使い方をしてもいいところなのである。縁側は
日が当たっているのでたいていは老人か猫の指定席となっている……

「御義母さん、やっと晴れましたね。昨日まで雪が降っていたけど」
 昭和37年の冬、群馬県にあるとある小さい町。この地域特有の空っ風である赤城颪(あか
ぎおろし)が容赦なく吹き付けてくるので縁側もたいていは締めている。
 けど今日は小春日和を思い浮かびそうなくらいぽかぽかとしていて、窓越しから太陽の陽も
燦々と射している。
 この家に住むおばあちゃんは70歳を越えているが今でも元気で生活している。もっとも今で
は家事等は幸子さんという嫁に譲って、もっぱら針仕事や子供の世話などをして一日を悠々自
適に過ごしている。
 おばあちゃんがいつも座っていてる縁側の所の脇にみかんをいれた籠と裁縫道具がいつも
置かれている。
 庭は昨日まで降った雪が積もっているが、それにもかかわらず子供達が元気に遊んでいる。
 この家の子供は3人とも女の子である。今日は気候がいいのか家の外でままごとをしている。
雪の上にござを敷いておもちゃの家具を置いている。
 おばあちゃんは外で遊んでいる孫達を見て、
「寒いなか本当に外で遊んでいて元気じゃなあ」とつぶやくと突然縁側のガラス戸が開いた。
「おばあちゃん、雪でおすしを作ったの、食べて食べて!」この家の長女が木の板の上に小さく
丸めた雪球の上に魚の代わりの木の葉や紙を乗せている。
 おばあちゃんは満面の笑みで目を細くしながら、
「まあまあ、おいしそうなお寿司だこと。それではお言葉に甘えて戴くとしましょう」
と言った。孫達は3人とも満足そうな顔をしている。
 おばあちゃんは雪で作ったおすしを食べると(ままごとの中の食べ物は食べたフリをして捨て
てしまうのが流儀とされている)、
「今度はおばあちゃんから、みんなに一個ずつみかんをさし上げましょう」と言って脇にあったみ
かんを子供たちに渡した。
孫達は「おばあちゃんどうもありがとう!」と言って礼をすると、また玄関のほうに走っていった。
  おばあちゃんは孫達と過ごすのが楽しみだ。子供と接するとついつい自分も子供の頃に自分
に戻ってしまうのである。
「雪でお寿司か……時代は変わったな……。昔は雪兎を作ったり雪だるまを作ったりしたっけな
あ……」
おばあちゃんは嫁に、
「幸子さん、庭から雪をすくって来てくれないかね」と頼んだ。幸子は縁側から外に出るとお盆半
分くらいの量の雪をすくってきた。
 そしておばあちゃんは慣れた手つきですくってきた雪を半球型に形を整えると、
「草の葉で耳をつくり……本来は南天の実なんだけど、今はないからビー玉を目にして、……は
い、雪兎のできあがり」
幸子は「おばあちゃん、うまくできましたね。さっそく子供達にも見せてあげたいね」
と言うと、おばあちゃんはますます目を細くして、
「そうしなさいそうしなさい、生まれてはじめてみる雪兎にきっと孫達も喜ぶに違いないじゃろう」
と言った。
 庭でままごと遊びをしていた孫達が再び縁側に来ると、おばちゃんはさっき作った雪兎を見せ
た。
「うわ〜!かわいい兎!」3人の孫が一斉に歓声を上げた。
「おばあちゃん子供のころは雪が降るとこういう遊びをしていたんじゃよ。簡単にできるからお前
達も作ってみては?」と言った。
 孫達は縁側のそば辺りで3人が喜んで雪兎作りにとりかかった。
 おばあちゃんはそれを見て
「女の子はかわいいなあ」と笑みを浮かべた。
 1時間後、太陽の日は頂点を達し沈み始めている。おばあちゃんはふと縁側から外の様子を見
ると、そこにはたくさんの数の雪兎が出来上がっていた。大きいのもあり、小さいのもあり、耳が
木の枝だったり紙スプーンだったり。目が石だったりみかんの皮だったり梅干の種だったり……
「ほほほ、本当に色々な事を考えるなあ……」それを見ておばあちゃんは思わず笑い出した。そ
ばにいた幸子も、庭に出来上がっているたくさんの雪兎を見て驚き、雪兎のさまざまなバリエーシ
ョンに感心したり苦笑したり…… 
 2人は孫達の【遊び心】のおかげでなんともほほえましい気分になった冬の日であった。
【完】
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