2、鳥居 「初詣」
 正月は初詣から始まる人は多い。一年の無事と幸せを祈願するためにほとんどの日本人
が初詣をするという……
 これはいつの世も変わらない。たとえ時代が様変わりしても、決してなくなったり変わった
りすることがない定番の正月風景であり続けると思う。

 昭和30年代。そのころはまだまだ交通機関が今のように便利ではなかったし、他の地域
の寺社の情報もそれほどなかったので、初詣は市内や町内にある寺や神社で済ます人が
結構多かったらしい。
 静岡県のとある町。この町は正月になると東京や名古屋などに働きに出ていた若者が、
正月の間だけふるさとに戻ってくる人が結構居た。
 小さい町の神社はそこそこの規模だが普段は訪れえる人も少ない。
 この神社は敷地の関係から鳥居をくぐるとすぐ右に曲がらなければならない。曲がって
参道を通るとやっと拝殿と本殿が控えているのが見えてくるのである。すなわち鳥居の外
からでは本殿の様子が伺えない形になっているのである。
 「鳥居は俗界と聖界を画すところ」と昔から言われているが、ここはまさにそれにふさわし
い神社だった。
 12月31日の夜。参道にたくさんの参拝人が既に並んでいて、午前0時が来るのを待って
いる。地元の人が多いが、実家に戻ってきた若者も多い。
 時計の針が12時をさした。
 新しい年が始まった。
 住職がつく除夜の鐘を合図に参拝が始められ、護摩祈祷(ごまきとう)も始まった。参拝
が済んだ人が次々と境内のお焚き場で暖を取ったり古いお守りを燃やしている。そしてそ
こを囲んで多くの若者が旧友の再会を喜んでいる。振袖を着た女の人、はかま姿の人、洋
服の人……久しぶりの友人の出会いなのか会話も弾んでいる。
 その姿はまさに同窓会そのものだった。彼らにとっては小さい田舎の町だからこそ味わ
える年に一度の楽しみなのである。
 この町の神社の鳥居の中は、人と人とが出会う集いの場なのかもしれない。
 初詣で「再会」を果たした若者の集団や、初詣を済ました人々は参拝を終えると次々と鳥
居の外へと出て行く。きっと彼らは短い正月を旧来の仲間達と楽しく過ごすのだろう……。
 そして小さい町の神社はしばしの間もとの静寂な姿に戻るのであった。
 時代も平成になるとマスコミの宣伝や交通機関の発達からか、大晦日の夜から家族総
出で有名な神社仏閣に初詣に赴く人が増えている。近年ではさらに初詣ツアーなる旅行
企画も色々登場している。
 旅行感覚で色々な神社にいって一年の願いをかけるのも悪くはないが、昔のように地
元の神社で初詣を済ますのも案外いいかもしれない。
 そう、鳥居の中できっとあなたにも思いがけない出会いがあるかもしれないから。
【完】
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